シリーズ『くすりになったコーヒー』


●「コーヒーを飲んでいる人は癌になり難い」は本当か?


 疫学研究の一応の結論で、それなりに正しいと言えます。しかし「疫学だけでは信用できない」と言う専門家が大勢います。疑問視される最大の理由は、臓器の種類によってリスクが高まることがあるからです。


 ならばどうするかと言いますと、実験で確かめる方法が残っています。新薬開発などでは、候補薬の疫学研究はあり得ないので、最初から実験が唯一の方法になっています。コーヒーの「効く効かないの判断」もそれに習うと云うわけです。では、


●実験で効いたら本当に効くのか?


 いえいえそんなことありません・・・実験にも色々ありますから・・・確かな実験でなければ信用できません。


 ではインチキな実験があるんですね?


 インチキとまでは言いませんが、俄かには信じられない実験が山ほどあります。


 どんな実験ですか?


 それを検証することこそが、今期ブログ・テーマの狙いです。


 でもちょっとだけ、ヒントぐらいは教えてくれませんか?


 そんなに言うなら例をあげて説明しましょう。


●試験管内の反応が体内で起こるという保証はない。


 専門家は「in vivo(試験管内)」と「in vitro(体内)」を使い分けています。試験管を使って酵素反応を試してみても、それが体内でも起こるという保証はないからです。試験管とヒトの体は別物ですから、当然と言えば当然の話です。でもいざ薬とかサプリメントとか、そういうものの話になると「効いて欲しい」という願望が判断力を曇らせます。




●細胞を使う実験で効いたとしても、飲んで効くとは限らない。


 これも似たようなことです。単細胞の効き目と50兆個もの細胞集団では、全然違っているのです。難しい話は無しとしても、「薬は飲んでも吸収されないと効かない」という簡単な現象だって、言われてみるまで知らなかった、薬なら何でも吸収されると思っていた、というようなことは、知らない東大生だって大勢います。


●遺伝子に働いて効くとしても、遺伝子は人によって違うでしょ!


 21世紀はヒトゲノム解析の成功で始まりました。今やTVが遺伝子の話をしない日はないくらいに、遺伝子は社会に根づいています。でも、遺伝子のことをほとんど知らない人が大勢います。というより、遺伝子のことを全部知ってる人などいるはずがないのです。
そういう遺伝子に効くからといっても、人によって人種によって、はたまた環境によってさえ、遺伝子はどれもみな個人個人で違っていて、自分の遺伝子に効くかどうか、やってみなければわかりません。


 以上、3つの例を挙げましたが、インチキの素となる科学の話はまだまだありますよ。いくら書いても切りがありませんから、取り敢えず3つを憶えておいてください。その上で、コーヒーが癌を予防するか、癌になったらコーヒーが効くか、これから始まる実験の話を何処まで信じるかの目安にしてください。特保のインチキ、健康食品のインチキを見分ける目だって育ちますよ。


 では次回から、難しいお話をたっぷり書くことといたします。


(第273話 完)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空前の珈琲ブームの火付け役『珈琲一杯の薬理学』
最新作はマンガ! 『珈琲一杯の元気』
コーヒーってすばらしい!
購入は下記画像をクリック!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・