シリーズ『くすりになったコーヒー』


 アルツハイマー病治療薬の治験は、依然として困難な局面にあるようです。そんななか、軽度認知障害(MCI)を見極めて、認知症の発症を遅らせようとの脳トレーニングが推奨されています。もし発症年齢を5年遅くできれば、全国の認知症患者は半数に減るので、患者も家族も国も皆が喜ぶ状況になります(詳しくは → こちら)。


 年はとっても認知症にはなりたくないと誰もが願っています。そこで今回は、どうしたら認知症にならずにすむか、なったとしても軽くすむか、医食同源のお話です。


 先ずは、第3の糖尿病とも言われているアルツハイマー病(AD)にならない8ヶ条です。表1は、AD専門家がメディアを通じてPRしている7ヶ条に、筆者の信条でもある『毎日コーヒーを飲む』を加えて8ヶ条にしたものです。『毎日コーヒーを飲む』もそうですが、糖尿病予防とそっくりなことにお気づきのことと思います。




 さて生活習慣をどんなに厳しく守ったとしても、忍び寄る病魔を払うのに完璧ということはありません。そこで期待するのは、新薬リポジショニング(既存の医薬品を別の病気の治療薬として使うこと)の行方です。ここでも例のiPS細胞が活躍しています。


 京都iPS研究所では、アルツハイマー病患者の皮膚細胞からiPS細胞を作って、それを脳神経細胞に変身させました。するとその細胞は元の患者の脳神経細胞とそっくりの特徴をもつ細胞になったのです。そこで最終段階で、この細胞を正常細胞に回復するような既存医薬品をスクリーニングしたのです。


 結果は想定外のものでした。有効に作用した医薬品は、何と医薬品というよりもサプリメントで知られている青魚の成分、必須栄養素DHAだったのです。EPAでもないし、昔EPAをもじって作られた高脂血症薬エパデールでもなく、DHAが効いたのです。今は臨床試験の結果が待ち望まれる段階です(詳しくは → こちら)。


 それでは、DHAを含めて、AD発症を予防するリポジショニング薬候補を表にまとめてみましょう。セルベックス、シロスタゾール、イソプロテレノール、ガンマオリザノールなど決してその分野の第一選択薬ではありませんが、隠された効能を秘めているのかも知れません。




 DHAがAD予防薬・治療薬になる可能性を指摘したのは京都iPS研究所の井上治久教授でした。実際にアルツハイマー病の患者皮膚から再生した脳神経細胞は、これまでの基礎研究の方法を遥かに超えた確かな創薬技術であることが示されたのです。その結果見つかったのが青色魚の脂肪酸とは本当に皮肉な話です。DHAはテレビCMでもお馴染みですし、そんなありふれたものがアルツハイマー病を予防するなんて誰も思っていませんから・・・。


 もう1つガンマオリザノール(米糠の成分)についても概略を紹介します。ブランド医薬品(大塚製薬)の添付文書を見てみますと、尿中に排泄されるのはほとんどがフェルラ酸だそうです。フェルラ酸は医薬品ではありませんが、連用の安全性は評価済みということで、表に加えておきました。さらに言えば、日常フェルラ酸の供給源としてはコーヒーに大量に含まれているクロロゲン酸であることも確かな事実です。


 さてもし読者のなかに表2の薬を飲んでいる方がいらっしゃれば、現在の使用目的以外にも『将来ボケないかも知れない』との期待感をもって飲めば、飲み忘れがなくなるかも知れませんよ!何かそれらしき自覚症状(物忘れが減ったとか)が現われたら、迷わずご一報いただければ幸甚です。


 医食同源の世界はまだまだ奥が深いです。


(第269話 完)


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