シリーズ『くすりになったコーヒー』
●コーヒーの抗酸化作用が細胞ストレスを緩和して死亡率の高い疾患(がん、心臓病、脳卒中)を予防する。
これは既に常識ともいえるコーヒーサイエンスの果実です。ポリフェノールのクロロゲン酸がよいとか、深く煎るとできるNMPが効くとか・・・議論は継続中ではありますが、コーヒー人気の上向きに合わせて、果実はどんどん広まっています。
コーヒーのNMPについては、オーストリアの女性科学者ソモザ博士が5年前から唱えています・・・「カフェインとNMPの協力作用が癌を防ぐ」。深煎りコーヒーに入っているNMPは、飲むとNrf2(1996年に発見された転写因子で、細胞の酸化ストレスを解消する)を活性化して、癌化を防いでいます(最新解説は → こちら)。
その後2012年7月に、日本の錚々たる国立研究機関から驚くべきプレスリリースがありました。
●癌の悪性化をもたらす代謝制御機構を発見(詳しくは → こちら)。
この研究はコーヒーとは無関係ですが、もし何らかの原因で癌患者のNrf2が活性化するようなことがあれば、癌の悪性化が起こるというのです。1種のパラドックスと言える現象ですが、コーヒー研究家はすぐに気づきました。
●コーヒーは癌を予防するが、発癌してからの深煎りコーヒーは、悪性化を早める可能性が強い。
こんなことがもし本当なら「コーヒーが癌を予防するが、癌になったら飲んではいけない・・・」。でもそんなこと実際に起こっているかどうか、もし起こっていれば大問題です。「誰か早く確かめてください!」・・・そして1年が経ちました。
●米国NYのマウントサイナイ医療センターで治療した96名の侵襲性乳癌患者のなかで、コーヒーを飲んでいた患者の死亡率が高かった(詳しくは → こちら)。
やっぱり本当なんだ。でもどうしてそうなるのか・・・それが解らないうちは、たった1編の論文を根拠に「深煎りコーヒーを悪者にはできない」し、「コーヒー好きの乳癌患者に恨まれたくもない」。そんなこんなで日が経って2015年になりました。するとスエーデンから真逆のデータが出てきたのです。
●エストロゲン受容体陽性(ER+)の侵襲性原発性(invasive primary)乳がん患者506名をタモキシフェンで治療して経過観察したところ、3年目からコーヒーを飲む群の死亡リスクが低下した(詳しくは → こちら)。
米国とスエーデンでどうしてこんなに違うのでしょうか? 米国NYの調査ではコーヒーは悪者になりました。スエーデンでは善玉です。さあどっちの論文が正しいのか?残念ながら正しいと自信を持てる答はありません。それぞれ調べた患者の状況が違いますし、治療経過も不明です。その上どちらもNrf2の存在を意識していません。ただ1つだけヒントになりそうな観察内容がNYの論文に書かれていました。
●総数96名の3分の1がストレスのために疲労困憊状態だったので、そういう患者さんが自分で決めてコーヒーを飲んでいた。
疲れが酷い患者は「強いストレスを感じていた」ので、ストレスマーカーとしての血中コルチコイド値が異常な低値を示していました。強いうつ状態で体の痛みと不眠を訴え、さらには抗がん剤治療の回数が多い傾向にありました。スエーデンの論文には、このような記述はないので比較はできません。
解らないことが多いのですが、取り敢えずの結論として、疲労が激しい癌患者さんはコーヒーを飲まない方が安心かもしれません。もし飲みたいのなら、深煎り(Nrf2を活性化する)を止めて、浅煎り(Nrf2を抑制する:詳しくは → こちら)を飲んだ方が安心です。
本編は新知見が出ましたら、又お伝えすることといたします。
(第252話 完)
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