シリーズ『くすりになったコーヒー』

 コーヒーノキの原産地は、アフリカ大陸の山奥のまたその奥のほんの狭い所です。文明からは遠く離れた場所なので、コーヒーの記録が文字に残されたのは、ようやく10世紀になってからのこと。ペルシャの古典「医学集成」に、「コーヒーは胃の薬」と書かれたのが始まりでした。

 その頃のコーヒーは、果実を丸ごとか、種子だけを取り出して、お湯で煮だして飲んでいました。ですから苦くもないし、香りもなかったのです。それでもカフェインの効果は抜群でしたから、頭痛や吐き気止め、眠気覚ましとして、イスラム教僧院の秘薬となって珍重されたのです。

 ところでコーヒー豆の焙煎はいつ頃はじまったのでしょうか?実はよく分っていません。日本語版ウイキペディアには13世紀になってからと書かれています。「偶然起きた何らかの事故で豆が焼かれた時に出た芳香がきっかけになった(伊藤博著 コーヒー博物誌 八坂書房2001年)」とのことです。

 英語版Wikipediaを見てみますと、コーヒー発見物語にはいくつもの書き換えがあって、その1つによれば、「コーヒーの値が高いので、麦を焼いた『偽コーヒー』が飲まれていた」というような記述がありました。コーヒーがなかった大昔から、ビール醸造はイスラム教僧院でも行われていましたから、コーヒー豆の焙煎も発見当初から始まっていたかも知れません(写真を参照)。



 そこで筆者は、英語圏のWebを検索してみました。すると、GoCoffeeGo.Comというサンフランシスコ市にあるコーヒー会社のホームページに行きつきました。そこに書かれているのは、有名な羊飼いカルディ物語のバージョンアップ版で、コーヒー発見と同時に焙煎コーヒーを抽出する飲み方も発明されていたというお話です。

それでは、GoCoffeeGo会社の異聞・コーヒー発見物語を、筆者の日本語訳で紹介します(詳しくは → こちら)。

●昔、エチオピアの羊飼いカルディは、山羊たちが異常にはしゃぎまわっているのを見つけました。間もなくわかったことには、赤い木の実を食べて興奮していたのです。こうしてコーヒーノキが発見されました。

 カルディはその実を自分でも食べてみました。するとたちまち気分が高まったカルディが山羊たちに言いました。「これは天の恵みに違いない」と。カルディと山羊たちは急いで近くの修道院に行って、奇跡とも思える赤い実の効き目について話したのです(ここまではオリジナル版と同じです)。

 しかし、主教は気にいってくれませんでした。「お前たちは悪魔に取りつかれている!」。主教は悪魔の仕業に違いないと思い込んだのです。そして、「悪魔なんぞは焼け死んでしまえ!」と叫びながら燃え盛る暖炉のなかに赤い実を投げ込んでしまいました。


 奇跡が起こったのはその直後でした。煌びやかな礼拝場の隅々まで、焼きたてのコーヒーの香りが満ち溢れ、主教はその虜になって、余りの気持ちよさに眠り込んでしまいました。それに気づいた若い修道僧は新しいものを恐れることなく、真っ黒に焦げたコーヒー豆を急いで火のなかから取り出して冷たい水のなかに入れたのです。水はすぐに色づいてコーヒー色になりました。修道僧は戸惑うことなく飲み干して、朝まで元気に起きて居られたことを創造主に感謝したということです。この修道僧こそが世界初のバリスタになったのは言うまでもありません・・・おお


「ハレルヤ!」。

●世界初のバリスタは、麦酒工房で大麦を焼いていた人ではないでしょうか?


(第250話 完)


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