シリーズ『くすりになったコーヒー』

 コーヒーの病気予防効果が確かなものになってきました。効き目を科学的に説明できるようになったからです。おしっこが出るとか目が覚めるというだけではなく、もっともっと魅力的な効き目の薬理学が次々に出てきています。


 今日紹介する新発見は、癌の更なる免疫療法につながる話です。


●樹状細胞(体のどこかに癌ができたことを、免疫細胞に知らせる細胞)のなかで、活性酸素が癌由来の抗原提示(注)を邪魔している(詳しくは → こちら)。


 セル誌に載ったこの論文を、ネイチャー誌(7月16日号)が引用して解説しています。それほど強いインパクトがある発見なのです。ですからその内容が、将来コーヒーと関係するかもしれないことを先取り解説しておけば、このブログの価値も高まるというものです。まずはネイチャー誌から解説図の引用です(出典は → こちら)。



 図で、2つの免疫細胞、つまり樹状細胞とマクロファージは抗原提示細胞と呼ばれています。特に樹状細胞は自分の細胞に樹状突起をたくさん作って、細胞表面積、いわば提示可能面積を広げています。そしてその広い表面に、「これが抗原だよっ!」と言うかのように、癌細胞の切れ端を提示するのです(図下の紫色の四角)。


 図の下半分が言いたいことは・・・第1に樹状細胞が提示した癌抗原(紫色の四角)の存在を、T細胞に認識してもらうことです。第2には、図では省略されていますが、T細胞が、癌を退治する役目の免疫細胞を活性化することです。


●活性酸素(図のROS: Reactive Oxygen Species)はこのメカニズムの邪魔をする。


 どういう邪魔かと言いますと、活性酸素がストレス原となって、小胞(ER)にある脂肪合成スイッチ(通常はOFF)をONに切り替えるのです。すると酵素XBP1が働いて大量の脂肪が油滴となって溜まってきて、それが抗原提示の邪魔をするという段取りです。


 ところでこの論文にコーヒーのことは何も書いてありません。書いてあるのは、癌を抑制するために、「脂肪合成(図のXBP1)を阻害する物質を見つければ医薬品になる」という新しいアイディアです。どうして、「ROSを減らせば・・・」と書かないのでしょうか?


●ROS(活性酸素)を減らせば癌を予防できることは既に証明されている。


 そうです。論文には新しい発見を書かなければならないのです。既に証明されている「ROSの減らし方」を書いても新発見にとっては、何の役にも立ちません。そんなわかりきったことは、論文を読む人が勝手に考えればよいのです。で、筆者は考えました。


●コーヒーポリフェノール(クロロゲン酸)とNMP(トリゴネリンの焙煎産物)が樹状細胞のROSを減らしてくれる!


 図の左側を見てください。以前にも紹介したウイーン大学のソモザ教授やその他の人たちが明らかにしてきた既知の事実です。筆者は、解説1と解説2をつなげることで、コーヒー薬理学が更なる飛躍を遂げることを期待したいと思います。


(注)抗原提示:樹状細胞が、癌など異物のタンパク質を細胞内に取り込んで、部分消化してできた断片を、細胞表面に提示すること、およびその機能のこと。


(第249話 完)


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