シリーズ『くすりになったコーヒー』


 数々の疫学データが蓄積されてきましたが、お医者さんが日常診療にコーヒーを使うまでには至っていません。もう一歩です。そこで今日は、日本糖尿病学会の2型糖尿病予防戦略を覗いてみます。


●日本糖尿病学会が『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013(南江堂)』を編集・出版しました(詳しくは → こちら)。


 このガイドラインは、単行本としても売れていますが、学会ホームページから誰でもダウンロード可能です。そこで早速ですが、ガイドライン第23章を開いてみました。


●ガイドライン第23章:2型糖尿病の発症予防(詳しくは → こちら)。


 この頁には、糖尿病を予防しようという人のために、医者が為すべき指導指針(ステートメント)が書かれています。さらに、各ステートメントには、その内容を受診者に勧めるべきか否かの重視度(グレードA〜D)が書かれています。以下は、ステートメントとグレードの抜粋を表にしたものです。赤字で示す『コーヒー』に注目して下さい。



 さて、このガイドラインは2013年に編集・発行されたものなので、オリジナルデータは2012年以前のものです。コーヒーのグレードを「根拠が明確でない」との理由で低めの「C」に評価した訳は、当時の研究到達レベルに基づいているからです。つまり「時が至っていなかった」のです。


●2012年までは、コーヒーと2型糖尿病の総説論文はあるものの、信頼すべき疫学メタ解析論文はなかった(少量の飲酒・グレードBには2つ論文がある。末尾も参照)。


 疫学研究は、少ない研究費で時間をかけずに結果を出せる「後ろ向き研究」から始まります。手間暇かけないこのやり方で正確なデータは出てきません。そして次のステップで、手間暇とお金をかけて「前向き研究」を行います。これには10年〜20年が必要ですから、2012年までには間に合わなかったということです。


 加えて、2型糖尿病の発症を予防するアディポネクチンが、コーヒーを飲むと増えるというヒト試験データが出てきたのは、ここ数年のことです。ですから、表に示す2013年のグレードCは正しい判断だったのです。それでもコーヒー科学は進化しています。


●2014年に発表された疫学メタ解析論文は信頼に値する(詳しくは → こちら)。


 このメタ解析論文を以前のものと比べますと、解析対象となった論文数が倍増(全28論文)。解析対象者が100万人を超えたこと。糖尿病発症人数が4万5000人に達したこと。これらはデータの信憑性を高めます。その結果、各種の交絡因子を排除できたことは大きな進歩です。


 最後に、表中「少量のお酒を飲むこと」がグレードBとなっているわけは、日本人は欧米人とは違うとの論文があるものの、2005年に欧米で発表された2編の疫学メタ解析論文に基づいています(ガイドラインを参照)。


 ということで、コーヒーの結論を次のようにまとめました。


●日本糖尿病学会が、2型糖尿病発症を予防するコーヒーのグレードを、CからB(行うよう勧める)に昇格させる日が近づいてきた。


(第238話 完)

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