シリーズ『くすりになったコーヒー』


 水と油を瓶に入れて、激しく振り混ぜると白く濁りますが、静置すると間もなく上下2層に分かれます。水と油は本来混ざり合わない、溶け合わないものなのです。


 水と油を均一に混ぜ合わせれば、調理のバリエーションが広がるし、ケーキや嗜好品の類だって、見たこともない組み合わせが可能になってくるのです。例えばマヨネーズは、卵黄に含まれているレシチンが乳化剤の役目を果して、サラダ油と卵と酢が均一に混ざった新たな食感をもたらします。乳化剤は天然品の他、合成品も揃っています。


 水と油の食べものが乳化剤によって混ざり合えば、それぞれの素材にはない驚きの触感を楽しめます。が、しかし、もし体のなかで水と油が混ざりあったらどんなことになるでしょうか?


●体はあっと言う間にマヨネーズのようになってしまう。


 これは実に恐ろしいことですが、実は現実に起こり得る現象であることを、Nature誌が書いています!(詳しくは → こちら)。


 この論文の実験について、Nature誌の日本語解説を引用します(若干修正)。


●食物中の乳化剤がマウスの腸内フローラに影響を与え、大腸炎とメタボリックシンドロームを助長する。



『腸管には100種100兆個の微生物が住み着いており、これを腸内フローラという。腸内フローラは、特に小児期の代謝や免疫の発達に恩恵をもたらすが、腸内フローラと宿主の関係が乱れると、炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームなど、多くの慢性炎症性疾患の原因になる。腸管を細菌から守る第一の障壁は腸管表面を覆う粘液である。粘液によって腸管を覆う上皮細胞は、大部分の腸内細菌と安全な距離を保つことができる。これを言い変えると、粘液と細菌との相互作用を破壊する薬品には、腸管に炎症を起こす可能性がある。これを踏まえた仮説によれば、食品に乳化剤を添加するようになった20世紀半ば以来、炎症性腸疾患の増加が見られているのである。今回我々は、一般に使われている2種類の乳化剤、カルボキシメチルセルロース(CMC)とポリソルベート80(P80)が、比較的低濃度でマウスに軽度の炎症と肥満/メタボリックシンドロームを引き起こし、これら疾患の素因をもつマウスでは重度の大腸炎になることを明らかにした。乳化剤が引き起こすメタボリックシンドロームは、腸内フローラの侵害、微生物種の変化、炎症促進作用の上昇につながる。これらの結果は、従来の仮説を裏付けるものである。乳化剤の広範な使用が、肥満/メタボリックシンドロームや他の慢性炎症性疾患の社会的な増加要因の1つとなっている可能性が高い』


●コーヒーの乳化剤は大丈夫か?


 レギュラーブラックコーヒーはまったく問題ありませんが、ミルクを入れると状況は変わります。油脂の旨味をコーヒーと馴染ませるため、乳化剤が加えてあるからです。


 ボトルコーヒーと缶コーヒーには、例えブラックといえども、ミルク入りほどではないでしょうが、乳化剤が添加されることがあるようです。「もしかすると、もしかする」ことを警戒するならば、ボトルや缶の食品表示をよく読んでみる必要が生じます。また、もしかすると省略されているかもしれません。


 何か解決策はないのでしょうか?


●コーヒー抽出液を長く保存しても濁りや沈殿を生じない方法とは?


 乳化剤を使わないのであれば、濁りや沈殿の元を絶つしかありません。そこで考えられるのは、焙煎熱で生じるメラノイジンのうち、重合して溶けなくなる成分を除去すること。つまり、いやな苦味成分を全部除いておけば、可能性が生まれます。ではその方法とは?


●コーヒー顆粒をクロマトグラフ担体と見做して抽出する新技術(詳しくは → こちら)。


 これは全く新しい概念のコーヒー抽出法の特許です。病気を予防するコーヒーを飲むのであれば、または、好きなコーヒーを飲んでついでに病気を予防しようとするのであれば、添加物など使わなくて済む方法を考えるか、または「石橋は3回叩いても渡るな」と考えた方が良いかも知れません。


(第237話 完)


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