シリーズ『くすりになったコーヒー』


●「うんこ」で病気を治す時代がやってくる。


 安倍首相も患った過敏性腸症候群の人の腸に、健康な人の「糞便」を注入すると、回復するとのことです。「糞便移植」という驚きの新治療法の登場です(詳しくは → こちら)。


 ほんの数年前に世界の医学会をびっくりさせた「糞便移植」が、どうやら本物と認められたようです。腸疾患だけでなく精神疾患まで、糞便移植がカバーする治療学の世界は、身体中のありとあらゆる病気に広がってきました。図は、論文から引用して日本語に書き変えたものです。



 去る2月22日のNHKスペシャルでも放映されたので、びっくり仰天して腰を抜かした人がいるかも知れません(詳しくは → こちら)。


 筆者がこの話を初めて聞いたのは、もう随分前のことです。半信半疑ではありましたが、古代ギリシャで早々と試して成功した医者がいたとのことで、つくづく「昔の人は偉かった」と感動した記憶があります。


●快食快便の人は元気で長生き。


 これを不思議に思った光岡知足(元東大農学部教授)は、世界に先駆けて腸内菌の分類作業に取り組みました。前世紀の半ばを過ぎた頃でした。後に光岡に弟子入りした辨野義己(現・理化学研究所)は、腸内菌の遺伝子を調べて分類精度を高めました。辨野はユーモアたっぷりの研究者で、某研究会で「便の研究をしている辨野(べんの)です」と言って名刺交換してくれた思い出があります。


 腸内菌は100種100兆個以上もいると言われています。NHKスペシャルではパパイヤ鈴木さんの腸内菌を調べて、200種類を確認したそうです。種類と数の個人差は大きく、年齢によっても食事によっても違っているそうです。よく善玉とか悪玉の腸内菌と言いますが、そのバランスが崩れると病気の引き金になるようです。


●健康に良い腸内フローラ(腸内菌の集団のこと)を作ることで、難病を克服できるかも知れない。


 腸内フローラの変調が原因となる病気の研究は、腸内フローラの研究が進むまで待たされました。そして今始まったばかりなのに、既に多くの新発見が報告されています。喫緊の課題は「糞便のような汚いものを使うなんて気味悪い」という先入観を払拭できるかどうかでしょう。もしできれば、医療の進歩につながる確率は高そうです。コーヒーだって捨てたものではありません。


●コーヒーのメラノイジンは腸内菌の栄養になる(詳しくは → こちら)。


 メラノイジンとは、「おこげ」の着色成分のことで、食パンの耳や焙煎したコーヒーに多く含まれています。そう、食べものに「芳ばしさ」をもたらす大事な要素でもあるのです。そのメラノイジンの質と量はいろいろですが、食べると腸内菌の繁殖に役立つそうです。ただし研究はまだ始まったばかりです(詳しくは → こちら)。


●コーヒーのメラノイジンは腸内フローラを通じて病気予防効果に寄与している可能性がある。


 コーヒーの研究は始まったばかりですが、味噌や醤油にも含まれているメラノイジンがコーヒーにはもっとたくさん含まれています。醤油と味噌のメラノイジンの効能について、日本語の解説をひとつ紹介しましょう(詳しくは → こちら)。


追記:HAB研究機構では、来る6月27日(土)に、第26回市民シンポジウム「健康な腸寿のすすめ」を開催します。図1の論文著者、金井隆典先生(慶応大学医学部)の講義も予定しています。お問い合わせは → こちら)。


(第234話 完)

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