シリーズ『くすりになったコーヒー』
膵臓癌は治りにくく死亡率が高い病気です。癌が膵臓内に留まっていればまだしもよいですが、肝臓に転移すると大変です。肝臓癌の生存率は他の臓器癌とは比べ物にならないほど低いからです(詳しくは → こちら)。
図1をご覧ください。膵臓癌の診断が下ってから、5年生存率を比べてみると、男も女も肝臓癌の次に悪いのです。ですからもし膵臓癌が肝臓に転移すると、生存率が大幅に短縮されてしまいます。
●膵臓癌が肝臓に転移するメカニズムが解ってきた(詳しくは → こちら )。
これまで、膵臓癌が肝臓に転移し易いことは知られていましたが、その詳しいメカニズムは不明でした。つい最近になってNature誌に載った論文によりますと、転移には「癌が仕組んだ巧妙な仕掛け」があるのです。
図2をご覧ください。先ず膵臓癌が作る免疫物質IL-6(左上)が肝臓に入ります。するとそこで転移前ニッチという不安定な微小組織が出来上がります。ニッチの中にはIL-6受容体があって、膵臓からくる更なる刺激を受けるのです。すると次にSTAT3という発癌因子が作られて、それがもとになって、ニッチ周辺に膵臓癌細胞を受け入れる準備が整ってきます。つまり、膵臓癌はまず転移先に居場所を確保して、それから引っ越しするという順番なのです。
ところでこの論文には書いてありませんが、筆者はコーヒーオイルに含まれているジテルペンに興味があります。何故なら、その1つカウェオール(図2の構造式)が膵臓癌の肝転移に介入する可能性があるからです。
●コーヒーオイルに含まれているカウェオールは、炎症を起こした肝臓でIL-6産生とSTAT3の活性を抑制する(詳しくは → こちら )。
この論文の内容を図1に書き込んでみました。カウェオールが肝細胞でSTAT3合成を抑制するということは、膵臓癌が肝臓に定着しにくいことを意味しています。少なくともその可能性があるということです。さらに加えて、
●カウェオールを含まないドリップコーヒーは、ウイルス性とアルコール性肝炎の癌化を抑制する(詳しくは → こちら)。
コーヒーと肝臓癌の論文は他にも多数あって、どれもが「コーヒーは肝臓癌を予防する」と結論づけています。コーヒーが膵臓癌の肝転移を抑制するとの論文はありませんが、もし運悪く膵臓癌と診断されたなら、毎日コーヒーを飲むことが増悪を予防する1つの有力な方法と思えるのです。
(第378話 完)
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