シリーズ『くすりになったコーヒー』
コーヒーを飲んでもすぐ眠れる人がいるかと思えば、朝まで一睡もできない人もいます。この差は一体何でしょうか? 先ずは良く知られている「効き目の個人差」を整理してみます。表をご覧ください。
さすがにコーヒーを飲むと眠くなる人、おしっこが出なくなる人は聞いたことがありません。しかし、効く人と効かない人がいることは確かです。片頭痛の場合には、効く人と効かない人がいる他に、ますますひどくなる人がいるのです。当たり前のことですが、何か病気を持った人が飲んだとき、効く人、効かない人、悪くなる人……個人差は3つに分かれます。
表に載せた3つの効き目は、出れば自分で自覚できます。自覚できないときは、効き目が出なかったということです。ここで注意したいのは、「コーヒーが目覚ましになる人でも、おしっこをしたくなるとは限らない」ということです。
さあ話が複雑になりますよ!
●同一人でも、コーヒーの効き目の種類によって、効き目が出たり出なかったりする。
「コーヒーを飲んでも目は覚めないが、おしっこは出る」という人もいるのです。こういう現象を説明するには薬理学の知識が必要です。
●効き目の種類によって効くメカニズムが違うので、その人の効き目は飲んでみなければわからない。
薬理学では、同一人であっても、効き目の種類によって、コーヒーの効き方が違うのです。ましてや他人同士では、効いたり効かなかったり、効いたとしても効き目が弱かったり、実に個性は色々というわけです。どうして個人差がそんなに大きいのか、不思議ですよね。そこで薬理学者は遺伝子を研究することにしたのです。
●コーヒーが効く人と効かない人の全遺伝子を解読して比較すれば、個人差の原因遺伝子を突きとめられる。
そう信じて、ハーバード大学「コーヒーとカフェイン・ゲノム研究機構」が12万人の遺伝子暗号を解読しました。結果は、以前から知られていた2つの遺伝子に加えて、新たに6つの遺伝子が見つかったとのことです(詳しくは → こちら)。
コーヒーの効き目に個人差を生じる遺伝子が全部で8つ見つかりました(表2を参照)。この表には、8つの遺伝子が作り出すタンパク質(遺伝子産物)の名称とその役割を整理しました。
さて、表1の効き目の個人差は、どれもカフェインに対する個人差です。カフェインに対する個人差は、表2のどのタンパク質で起こっているのでしょうか? すぐ気づくのは、カフェインを代謝分解する酵素CYP1A2と、それを作るAHRです。この2つのタンパク質が多い人はカフェインが効きにくいし、少なければよく効きます。もし遺伝子が変異して酵素ができないという人は、カフェインが効き過ぎて危険です。
では、その他のタンパク質はどんな個人差と関係しているのでしょうか?
●病気を惹き起こしたり、病気を予防する遺伝子は、コーヒーの効き目の個人差に関係している。
驚くべきことに、表2のタンパク質(遺伝子産物)は、表1の効き目だけでなく、がんや生活習慣病など、実に多くの病気予防効果の個人差に関係しているのです。コーヒーの病気予防効果は直ぐには自覚できないはずです。コーヒーは自覚できない薬理学の部分で、人によって効いたり効かなかったりするのです。がんにならない、糖尿病にならない、そういう病気を予防する効果ですから、コーヒーに対する効き目の個人差がその人の運命を支配しているようにも思えます。
●長い時間をかけて病気を予防するコーヒーの効き目(自覚できない効き目)には、大きな個人差がある。
さあ皆さん、コーヒーの本当の有り難みは、人生の最後に感じるものなのです。今のあなたにとって、コーヒーは医者や薬より有り難いものなのかどうなのか、更なるコーヒーの探求を続けることと致しましょう。
(第225話 完)
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