シリーズ『くすりになったコーヒー』


国立がん研究センターと言えば、日本を代表するがん研究機関です。勿論がん専門病院でもあり、がん予防の生活習慣についてPRしています。(詳しくは → こちら )。



 同センターは日本人の「コーヒーとがん」に関する疫学研究の拠点でもあります。そして日本人の場合、コーヒーの予防効果は肝臓がんで「ほぼ確実」、大腸がんと乳がんで「可能性あり」と研究成果を評価しています。にも拘らず、コーヒーのがん予防効果について、同センターは慎重な態度を崩しません。


●同センターの「日本人のためのがん予防法」に、「毎日コーヒーを飲む」がない理由とは?


 一口にがんと言ってもあちこちの臓器ががんになりますから、「コーヒーがすべての臓器がんを予防するとは限らない」というのが慎重論の理由です。同センターの調査では、コーヒーは男性の膀胱がんリスクを高めるので、その原因がはっきりしないうちは、がん予防に「コーヒーを飲みなさい」とは書けないのです。


 では、世界のデータはどうでしょうか? 前回お示ししたグラフによれば、咽頭がん、肺がん、食道腺がんの3つのがんが、相対リスク1.0を超えています。これに膀胱がんを加えると、全15の臓器がんのうち4つのがんで「コーヒーが原因かもしれない」の疑いがあるのです。


 では、これら4つのがんについて、コーヒー以外の原因が何かないでしょうか? 論文の著者が見落としているとか、または調査不可能な原因が隠れているかもしれません。もしコーヒー以外の原因が見つかれば、データの洗い直しが必要となります。


●4つのがんの相対リスクを高くする何かがあるか?


 実際に論文を読んで何かないかと探ってみたところ、表2ができました。



 まずは相対リスクが1.5を超える咽頭がん……すぐに思いつく原因があります。「熱いコーヒーを飲んでいませんか?」。コーヒーに限らず、熱い食べもの飲みものは、その通り道の臓器・組織の発がんリスクを高めます。咽頭がんの他にも食道扁平上皮がんのリスク増加が知られています。


 次にタバコの影響です。肺がんと膀胱がんはタバコの影響を強く受けるそうです。おまけに、昔使われていた建材アスベストと同時暴露がありますと、肺がんの発がんリスクは5倍になります。膀胱がんの場合には、タバコの発がん物質のほぼ全量が膀胱を通るということで、膀胱がんのリスクが増すとも考えられているようです。


 ところで、国立がんセンターの説明によりますと、男性の膀胱がんリスク増の原因はカフェインにあるとのことです。では、女性の膀胱はなぜがんにならないのか、不思議じゃないですか? もしカフェインが原因ならば、緑茶のカフェインだってリスク0では済まないでしょう……というような疑問が次々浮かんでくるのです(以下省略)。


●これ以上の疫学研究を続けても疑問の解消は困難。


 同センターもそう考えて、ホームページには「今後はメカニズムの解明と無作為化比較試験が必要」と書いてあります。でもそれって新薬開発の話ですよね。コーヒーに当てはめるのはどう考えても無理でしょっ!?


 では筆者の考えを書いてみます。
●コーヒーの発がん性の検証は、動物実験に頼るのが一番。


 結局のところ動物実験で慎重に調べるしかないのですが、そういう動物実験ならすでに色々と論文が書かれています。カフェインをいくら飲み続けても膀胱がんになるネズミはいなかったし、無理に大量に飲ませれば別の病気で死んでしまいます。つまり動物はたくさん飲めばがんになる前に死んでしまうのです。
●国際がん研究機関(IARC)の分類で、カフェインは分類3「人に対する発がん性については分類できない」となっている。その根拠は動物実験です。


 つまり動物実験の結果、カフェインはお茶と同じ程度の発がん性であって問題にならない……その程度に評価されているのです。もしコーヒーが男性の膀胱がんと関係しているとすれば、カフェイン以外の物質が原因で、そうなるとアクリルアミドしかありません。そのアクリルアミドも、前回書いたように、コーヒーのものならば「安全」なのです。


 皆さん、コーヒーががん予防のツールになることを期待しましょう。


(第222話 完)


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