シリーズ『くすりになったコーヒー』


 最近は、脳梗塞を起こしても一命を取り留めて退院する人が大勢います。退院するとき、「再発しないように毎日抗凝固薬を飲んでください」と言われます。


●血栓ができないように抗凝固薬を飲む。


 人によっては抗凝固薬ではなく、抗血小板薬を処方されたりします。薬の種類は違いますが、血を固まり難くするという目的は同じです。「血が固まる?それとも固まらない?」。この問題は簡単そうで、実に難しいことです。


 難しさの原因は何処にあるのでしょうか?


●血液の凝固能を決める実に多くの条件がある。


 自分自身の条件としては遺伝子や年齢があります。外部の条件としては衣食住の環境が影響しています。なかでも最も大きな影響を及ぼすのは「食事」だそうです。例えば「納豆を食べると固まりやすくなる」のはビタミンKの効き目です。


 脳梗塞経験者に処方される医薬品で一番多いのはワルファリンでしょう。


●ワルファリンは「猫いらず」であったことを知っている人はほとんどいない。


 聞いてビックリかもしれませんが本当の話です。ワルファリン入りの毒餌を食べた家ネズミはビタミンKが欠乏する。すると眼底出血を起こして明るいところへ出て来て死ぬのです。ですからワルファリンを食べた家ネズミの死場は、縁の下や屋根裏といった暗い所ではなくて、人目につきやすい場所なのです。「それがどうした?」と聞かれたら、「片づけやすいので虫がわかない」という利点です。


 もともとワルファリンはネズミが食べる毒薬ですから、そんなものを人が飲めば色んな想定外が起こります。効き過ぎれば内出血で、それはもう大変なことになってしまいます。しかも人それぞれの凝固能は、時々刻々と変化していますから、「毎日どれだけ飲めばいいの?」との問いに、医者も迷ってしまうほどです。


 専門の話はさて置いて、ワルファリンに替わる期待の新薬ができました。


●プラザキサは、ワルファリンのように「定期的な血液凝固能のモニターや用量調整が不要」なことを利点としている(図の添付文書抜粋を参照)。


 専門家にとって随分と大きな差があるのです。極言すれば「ワルファリンは危険、プラザキサは安全」・・・プラザキサは使いやすい新薬として高い評価を得るはずでした。が、しかし、またしても「副作用の重要情報を隠していた疑い」が浮上してきました。そして発売後に「出血事故が多発し、2011年米国内での死亡は542例が、日本では発売5ヵ月間に81例の重篤な出血性副作用が報告され、うち5例が死亡した」。


●血液をサラサラに保つ安全な薬はない。


 残念ながらこれが現状なのです。ですから薬のお世話になる前に、「血液凝固に良いという生活習慣を身につける」。これが一番大事なことではないでしょうか?でもそれにはあまりにも使える情報が不足しています。まずはコーヒーの場合を見てみましょう。


●コーヒーを飲むと血液凝固能が確実に低下する(詳しくは → こちら)。


 論文を書いた東海大医の後藤信哉教授によりますと、「患者さんや一般の人に向けて『成分が何かはわかりませんが、コーヒーを飲んだほうが心筋梗塞にはなりにくいです』と確信を持って言うことができます。心筋梗塞の患者さんには、昔は『コーヒーはダメです』と言っていたのに、今は『コーヒーは朝と夜くらい飲んでもいいですよ』と言える。これはとても重要なことです」(詳しくは → こちら)。


 後藤教授によりますと、効いている成分はカフェインではないとのことです。では何が?といいますと、「臨床家としてはわからなくても良い」のだそうです。でも筆者のような立場ではそうは行きません。


●効いているのは香りである(詳しくは → こちら)。


 コーヒーの香り成分(主にピラジン類)は実験的肺塞栓を予防したのです。これと後藤教授の話を合わせて考えますと、「香りのよいコーヒーを飲めば血栓が原因の病気の予防につながる」と言えそうです。


●薬学部の研究者の皆さん、お茶だけでなく身近なコーヒーについても是非研究して下さい。


(第216話 完)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
栄養成分研究家 岡希太郎による
『コーヒーを科学するシリーズ』
『医食同源のすすめ― 死ぬまで元気でいたいなら』
を購入は下記のバナーからどうぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・