シリーズ『くすりになったコーヒー』


 去る7月23日、インスタントコーヒーで有名なネスレ日本が、国内のコーヒー業界4団体から脱退しました。後の世に「ネスレ早まったな」との誹りを受けなければ御の字といった所かな。


●脱退理由、「レギュラーソリュブルコーヒー」の商品表示を業界が認めてくれない。


 私も認めません。ちょっと名前を変えたからって、ちょっと製法を変えたからって、お湯を注いで飲むことに変わりありませんから、インスタントでいいのです。インスタントの業界定義が合わないなら、そっちの方を変えればいいじゃん!?


 当の商品はドリップして飲むわけでもないし、サイフォンでぐつぐつするわけでもないのに、これをレギュラーと表示すれば、消費者はドリップしちゃうかもしれません。もしそんな真面目な人が現われたら、私の臍は茶を沸かすに違いないです。


 それでもなおネスレ日本が「レギュラーソリュブル」に拘るなら、「この商品は決してドリップしないでください」と書き足すような羽目になりかねません。思うに「スーパーインスタント」ぐらいが良かったのではないかなあ。


 以上は感想ですが、ここから先は珈琲論です。でもその前に、ネスレ日本のレギュラーソリュブルの説明です(ネスレ日本HPから改変しながら抜粋)。


●この商品は、細かく砕いた焙煎豆を抽出液の中に混ぜ合わせ、インスタントコーヒーの中に包み込む製法で作ったものです。この細かく砕いた焙煎豆は、飲んだ後のカップの底に残ります(Solubleじゃないじゃん!Insolubleじゃん!)。これを弊社では「クレッセント(三日月)」と呼んでおります。これこそが淹れたての香りと味わいの証です(これってコーヒー滓まで飲んじゃうってことですよね!?)。



 カップに残る滓(かす)が尋常でないコーヒーといえば、そりゃ何と言ってもトルコ式です。簡単に言えば「トルコ製小鍋を使う煮出コーヒー」のこと。トルコ料理店へ行けば出してくれます。それはもう滓を超えて泥と言った方がお似合いです。店の人に頼めば、泥の絵柄から運勢を占ってくれますけど、「貴方は病気になります」と占われた客はまだいないと思います。



●コーヒーで病気になりたくなかったら滓は飲むな。


 滓は不味いコーヒーの象徴みたいなものです。エチオピアの生産地で、ヤカンとか鍋で煮出したコーヒーを飲むわけは、高価な道具が不足だからで、日本人には不慣れです。北欧でもつい最近までバイキング式の煮出コーヒーが飲まれていたようですが、国の健康施策も手伝って今ではペーパードリップ式に変わったそうです。


 さて滓の何が悪いかと言いますと、コーヒー滓にへばりついている化学成分ジテルペンが原因です。コーヒーのジテルペンには2つあって、そのどちらでも飲めば血中コレステロールと中性脂肪が上昇します(詳しくは → こちら )。


 この効果はてきめんで例外はありません。もう1つの影響は、飲んだ人の多くで血中ホモシステインが上昇します(詳しくは → こちら )。


 コーヒーと病気の関係を調べた疫学調査では、高血圧と高脂血症の2つは、少なくともコーヒーが良い影響を与えることはありません。特に高脂血症の人がコーヒーを飲むとほぼ確実に血中脂質が上昇します。高血圧の人が飲めば、血管に悪いホモシステインで悪循環が起こります。それでもコーヒーを飲みたいというのなら、ろ過したコーヒーを飲みなさい・・・ということです。


●メタボの人、メタボになりたくない人は、コーヒー滓は飲まずに捨てろ。


 実に簡単なことです。ドリップ式(ペーパー、コットンなど)で淹れたコーヒーにジテルペンはほとんど入っていませんが、コーヒー滓も飲んでしまうトルコ式や煮出コーヒーには50倍〜100倍も入っています。そんなコーヒーを毎日飲んだら、高血圧、高脂血症が悪化してもちっとも不思議ありません。


●わざわざ滓を入れたまま飲むような変なコーヒー習慣を、そんなこととはつゆ知らずの人に勧めるわけには行きません。


(第213話 完)


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