シリーズ『くすりになったコーヒー』

 さて、これまで書いてきた記事の95%以上は「コーヒーは体に良い」というお話しでした。しかし逆に、「コーヒーは体に悪い」という論文もたくさんあります。一体どっちなのか?多くの方から質問が来ますし、TVや雑誌の記事も豊富です。


●実はこの問に答はない。


 えっと驚くかも知れませんが、落ち着いて下に書いたコーヒーの問を考えてください。答が出ない理由がわかると思います。でもその前に、「薬は体に良いか悪いか」という昔からの言い伝えを知っておくとヒントになります。


●薬は両刃の剣である・・・Medicine is a double-edged sword.


 効能と副作用(障害作用)の切っても切れない関係を格言になっています。しかし、薬の副作用が変じて別の薬になる例もありますから、一概に「副作用は悪い」とも言い切れません。そこで現代の医学・薬学では、「薬は正しく使ってこそ薬」なのです。


 さてコーヒーはどうでしょうか?


●「コーヒーを飲むと眠れない」これは体に良いか?悪いか?


答1:頭がスッキリして仕事がはかどるから良い。


答2:寝不足がたたって病気になるから悪い。


 1に当てはまる人にとって、「コーヒーは体に良いもの」でしょう。一方、2に当てはまる人は、「コーヒーは体に悪いもの」となるでしょう。つまり、「コーヒーが体に良いか悪いか」は、人と場合によって違うのです。ですから、「良いか?悪いか?」と聞かれたら、「人によりけり」と答えるしかないのです。


●「コーヒーを飲むとおしっこが出る」これは体に良いか?悪いか?


答1:悪いものを排泄するので良い。


答2:体が干乾びて脱水症になるから悪い。


 ここでも1に当てはまれば、「コーヒーは体に良いもの」になりますし、2ならば「悪いもの」になってしまいます。やはり答は人によって違っています。


 さて、ここでやや複雑な疫学調査の矛盾について紹介します。詳しい内容は第181話を参照して下さい。言いたいことは、コーヒーは良いか悪いかの問いは何処にでもついて回るということです。


●コーヒーを飲む高齢者は長生きするが、働き盛りの人がコーヒーを飲むと早死にする。


 これを朝日新聞が不用意に記事にしたものですから、あちこちに情報が飛び火しました。なかでも筆者が面白いと思ったのは、マンガにして解説した記事を見つけたときです((詳しくは → こちら )。



 朝日の記事を読んだ人は、「コーヒーが体に良いか悪いか」は、年齢によって違うと理解したはずです。コーヒーは年寄には良いものですが、若い人には悪いものと思えるのです。ですがこの一見もっともらしい論文の中身には重大な間違いが潜んでいました。


●若年層と高齢者の死亡原因はまったく違っている。


 若年層と高齢者の死因の違いに注目します。50〜55歳という年齢(特に女性)は癌による死亡リスクが最大ですし、30歳の頃は男女ともに自殺による死亡率が死因のトップにあるのです。それがコーヒーで増悪するかといいますと、そんなことはありません。むしろ逆になるのです。論文には、「コーヒーを飲む若年層に死亡リスクを高める病気は見当たらなかった」というような無責任な記述があります。


●この論文を何回読んでも、若年層で死亡率に影響した病気が何だかわからない。


 つまり死亡リスクが高くなる病気が見つからないのに、死亡リスクの数値だけが高くなる・・・というつじつまの合わない論文なのです。朝日新聞たるものが、こういう論文を記事にして世の中を騒がせてはいけません。世の中の方だって一喜一憂する必要などありません。


●疫学研究に「コーヒーが体に良いか悪いか」の答えはないし、実験研究では「コーヒーの良し悪しは人によって違う」のです。


 ということですから、コーヒーの良し悪しの深読みは止めたほうが良いのです。言えることはたった1つ。


●自分が美味しいと感じるコーヒーは体に良い。不味いコーヒーは百害あって一利なし。


 誰にでもどんな場合でも例外なしに当てはまるはずです。


(第211話 完)


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