シリーズ『くすりになったコーヒー』

 病院でもらった薬が「効くか効かないか」というとき、薬物代謝酵素の影響が気になります。専門家はCYP酵素と呼んで警戒しています。CYP酵素には多くの種類があって、人種により人によって組み合わせが違うという特徴があります。


●薬が効く人と効かない人では、CYPの種類が違っている。


●飲んだ薬が、自分がもっているCYP酵素と結合するとき、効き目に変化が起こってくる。


 コーヒーのカフェインが腸で吸収され、次に肝臓を通るとき、CYP1A2の作用をうけて、3つの代謝物に変ります。CYP1A2を多く持っている人はカフェインが効かない人、まったくもっていない人はちょっとのコーヒーで気分が悪くなります。


 肝臓でCYP1A2の作用がカフェインに向いている間は、他の薬を飲んでも、そちらへの作用は弱まります。飲んだ薬がカフェインより強くCYP1A2の影響を受ける場合には、カフェインの代謝分解が遅くなり、飲み過ぎれば中毒の可能性が出てきます。


 実例で上げましょう。


●フルボキサミン(デプロメール)という抗うつ薬と一緒にカフェインを飲むと、フルボキサミンがCYP1A2を独占し、結果としてカフェインの血中濃度を押し上げる。


 実際にカフェインの血中濃度は最大10倍に上昇します。コーヒー1杯が10杯になってしまうのです。これではカフェインが効き過ぎても不思議はありません。飲んだ患者さんは急性カフェイン中毒にならないとも限りません。フルボキサミンを飲むときは、お茶もコーヒーも飲んではいけない、ということです(詳しくは → 医薬経済社の「カフェイン もうドーピングなどとは言わせない」をお読みください)。


 さて、実在する医薬品でカフェインとの相性が最悪なのはこのフルボキサミンでしょう。他にも相性の悪い組み合わせはありますが、致命傷に至ることは稀なことです。抗生物質や抗菌薬にカフェインとの相性の悪いものがありますし、抗不安薬にもありますが、お茶1杯、コーヒー1杯で身体に異常な影響が出ることは稀なことです。


●それでも気になる人のために:抗生物質、抗菌薬、抗不安薬を飲むときは、お茶やコーヒーは無しにして、水かぬるま湯で飲みましょう。


 一般論ではありますが、薬を飲むときは水かぬるま湯が安心なのです。ついつい薬を飲むときに、お茶やジュースや、時によってはビールで飲む・・・などという変わった人も居なくはありません。


●時として、薬との相性が悪い飲みもの食べものは、ジュース、クロレラ、黄緑色野菜、納豆、カフェイン、チーズ、アルコール、牛乳なのだ。



 「くすりの適正使用協議会」は、薬の正しい使い方について、小学生のときから学ぶことをお勧めしています(詳しくは → こちら)。


(第207話 完)


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