シリーズ『くすりになったコーヒー』


●嘘をつくと閻魔(えんま)さんに舌を抜かれます。


 昭和40(1965)年頃までの日本の子供は、そう教わりました。ギリギリ1970年までに生まれた人は聞いたことのある諺です。今や薬や医療を生業とする人達、重々お気をつけください。


 コーヒーの「カフェイン」も例外ではありません。コーヒーから見つかったカフェインは、コーヒーに因んで命名されました。ですから欧米ではCoffeeとCaffeineはほとんど同じ意味で使われているのです。科学論文でさえコーヒーなのかカフェインなのか区別できないときがしばしばです。本人は嘘と気づかずに嘘をついているのです。


●ネズミにコーヒーを飲ませて実験しました。


 そんな論文をよく読んでみますと、「ネズミが飲まされたのはコーヒーではなくてカフェインでした」という例がたくさんあります。それとは逆にカフェインを飲ませたと嘘をつく論文もたくさんあります。ですから、論文の実験を再現しようとしても、失敗に終わってしまいます。


●コーヒーとカフェイン、「どっちでもいいでしょ」という人も大勢います。


 ということですので、「コーヒーは良くない」という人のなかには、本当は「カフェインは良くない」という人が混ざっていますし、その逆もあるのです。最近はどちらかといいますと、「カフェインは良くない」と思っている人の数が多くなりつつあります。


●カフェインが悪役にされる最大の理由は、劇薬指定だから。


 カフェインとコーヒーが同じ意味の欧米では、カフェインが劇薬ならコーヒーも劇薬であるはずです。しかしそんなことはありません・・・というよりも、昔から「コーヒーは毒だから飲まないほうが良い」と言われていましたし、今でも「飲み過ぎないように」と必ず言われるのです。


 そんなカフェインに大きな変化が起こりつつあります。「古くて新しい薬」として甦るのです。


●未熟児無呼吸症候群(妊娠28週未満の90%以上に発症)の治療薬として、海外でクエン酸カフェインが開発された。


 まさかカフェインがこの病気に効くなどとは、お医者さんでもご存知ない人がいるくらいです。医薬経済社が2008年に発行した単行本「カフェイン、もうドーピングなどとは言わせない」のなかに、国際研究チームによる治験データの解説が載っています(原著論文は → こちら)。



 日本ではノーベルファーマ社が、無水カフェインで未熟児無呼吸症候群を治療する臨床試験を実施し、去る3月25日、製造販売承認を取得しました(詳しくは → こちら)。


 下の写真はノーベルファーマ社の社長さんが、「古くて新しい薬」について講演したときのものです。余談ですがNPO法人・HAB研究機構とは、新薬開発を技術支援している団体で、啓蒙活動のため市民会員向けサービスを積極的に行っています(詳しくは → こちら)。



 「子供には飲ませるな」と言われているカフェインで未熟児を治療するなんて信じられないかも知れません。しかしこれは本当の話です。しかもカフェインを使うと未熟児の何割かが救われて、普通の子として成長するのです。治療期間は1年以上に及ぶこともありますが、未熟児がカフェインを連用しても、基本的には安全であり、脳神経の成長が促されるというのです。


●カフェインは、適正使用によって、子供にも十分に安全な薬である。


 はっきりした理由もなしに、子供のカフェインを悪者扱いしていたお医者さん薬屋さん、閻魔さんのお許しが出ますように。


(第206話 完)


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