シリーズ『くすりになったコーヒー』


 これまでにも、「コーヒーを飲んでいる人が手術で入院すると、普通より早めに回復する」との論文がありました。回復が早い理由として、全身麻酔の影響で止まっている腸の蠕動運動が回復しやすいからで、1日だけ早く普通食が食べられるようになったとか、おならが半日早く出たとかいうデータが載っていました。では入院日数が減ったかというとそうでもないのです。要するに大した効き目ではなかったのです。ところが今回の論文は、


●コーヒーを飲んでいる肝臓癌患者は、最後の手段である肝移植後の死亡率が格段に低い(詳しくは → こちら)。


 手術の傷が早く治るとかの次元を超えて、癌が再発したり無駄に命を失うことが減るというのです。正に想定外の効き目です。研究したのはドイツと米国の錚々たる9病院の共同チームで、調査症例数は90、全例が肝臓癌、そのうち16症例(17.8%)が約1年後に癌を再発しましたが、最長12年の死亡例を多変量解析したところ、術前・術後のコーヒー摂取が死亡率と関係していることがわかったのです。数値を見ると、術後1日3杯以上のコーヒー摂取で、死亡リスクのハザード比HRが、コーヒーを飲まない群の1.00に比べて0.29の低値を示していたのです。


 百聞は一見に如かずですから、論文に掲載された図をご覧ください。


 2枚の図は、左が手術前のコーヒー、右は手術後のコーヒーの1日杯数と生存率の関係です。コーヒーを飲まない人のグラフは赤色で、1日3杯以上は黄色です。右図によれば、術後に毎日飲むコーヒーが、生存率を飛躍的に高めていることが見て取れます。コーヒーが手術の予後に及ぼす効果をこれほど明確な有意差で観察した論文は初めてで、にわかには信じられないほどのデータです。


 さて、日本の肝臓移植の実績を見てみますと、コーヒーの調査こそありませんが、下表に示す術後生存率が発表されています。ドイツのデータよりやや優れた数値ですが、まだまだ改善の余地がありそうです。ですから、術後には積極的にコーヒーを飲むなど生活習慣を変えることも大いに有望な改善策ではないでしょうか。




 今回のドイツ発の論文は、薬では不可能な手術による死亡リスクの改善が、ごくごく簡単な日常生活の工夫で実現できるという、夢のような話を真面目に考える切っ掛けになると考えられます。


●コーヒーは本当に偉大な唯一無二の飲みものである。


 コーヒーはたった1つの植物の種に過ぎないのに、そこには何種類もの薬用植物の処方箋が詰まっていること、確かな事実として受け入れるときがやってきました。


(第376話 完)


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