シリーズ『くすりになったコーヒー』


●レギュラーコーヒーを飲んでも食欲への影響はない。デカフェコーヒーを飲むと食欲が抑えられる。


 今日のお話は、この意外な事実です。以前から、すきっ腹にコーヒーを飲むと食欲がなくなるとか、いや腹が減るとか、人によりけりでした。


 疫学研究によれば、コーヒーは体重を減らす傾向があるので、食欲を抑えているのでは?とも想像できます。一方で、「コーヒーは内臓脂肪を燃やして体重を減らす」という説も有力で、花王の「ヘルシア缶コーヒー」は、この原理を応用しています(詳しくは → こちら)。


●小規模ながらコーヒーと食欲の関係を調べた直近の臨床研究では、デカフェコーヒーは満腹ホルモンPYYの血中濃度を高めて、空腹感を抑える(詳しくは →こちら)。


 食欲に影響する複数のホルモンが知られています。しかし食欲とホルモンの関係は複雑で、誰もが納得する説明はありません。人によって差があり過ぎるのが原因です。今回の臨床研究では、調べた人数が少ないという欠点がありますが、議論のたたき台ということでは価値があると思われます。


 表1は、食欲を調節している代表的な3つのホルモンです。



 次は、今回の臨床試験の中身です。


【プラセボ対照4群比較試験】


 11名の男性被験者に、3種類のコーヒーとカフェイン飲料、さらにプラセボとしての水を、日を置いて順に1つずつ飲んでもらいました。飲む前と飲んだ後90分と180分に、食欲とホルモン血中濃度の変化を調べました。食欲の測定では、空腹感と満腹感をできるだけ客観的に表わすため、VAS法と呼ばれる方法を採用しました(注を参照)。ホルモン測定では、肘の静脈から採血しました。


  1.カフェイン入りコーヒー

  2.デカフェコーヒー

  3.カフェインの水溶液

  4.プラセボとしての水


 結果をまとめると表2のようになりました。



 普通のカフェイン入りコーヒー、カフェインだけの水溶液、プラセボとしての水、この3つを飲んだときは、空腹感がほんの少しだけ増していました。時間が経った分、お腹が減ったということかもです。これに対してデカフェコーヒーは、明らかに満腹感をもたらしました。デカフェコーヒーだけが食欲を抑えたということです。


 食欲が変化した証拠として、デカフェコーヒーを飲んだ90分後の測定で、食欲を抑えて満腹感をもたらすホルモンPYYが明らかに増えていました。その後は徐々に減りましたが、180分までは飲む前より高い値が続きました。一方、デカフェ以外の場合には、どのホルモンにも変化はありません。


 この実験から次のことが解ります。


  ●カフェインは食欲とは関係ない。

  ●デカフェコーヒーに食欲を抑える何かが入っている。


 カフェインが食欲と無関係なことは予想外のことでした。反面、デカフェコーヒーが食欲を満たす効果に注目したいと思います。ダイエットとか脱メタボには、デカフェが一番ということになるのでしょうか? でも何故そうなるのか解らないと、お勧めするわけには行きません。


●コーヒーには食欲を抑える何かが入っているようだが、カフェインがあるとその効果が出てこない(のかも知れない)。


 何かとは一体何なのでしょうか?今のところ科学的根拠を示すコーヒーの論文は見当たりません。逆に、カフェイン以外には、副交感神経を優位にする成分が多いデカフェコーヒーですから、飲めば食欲を亢進してもよいはずなのです。VASを用いた実験に誤差がどれくらい含まれるのか、今後の論文の積み重ねを待ちたいと思います。


●筆者の感覚では、「コーヒーと食欲の関係は、飲むコーヒーの種類と、飲んだ人によってまちまちである」。


【注】VAS(Visual Analog Scale)法とは、視覚的アナログ尺度と訳されています。空腹感ならば、長さ10センチの物差しの左端を「空腹を感じない」とし、右端を「これ以上は空腹を我慢できない」などとし、「今現在の気持ちが何センチあたりか?」を想像してもらう検査法のことです。ちょっといい加減のように思えますが、他に良い方法がありません。


(第198話 完)


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