シリーズ『くすりになったコーヒー』


 若い人でも、コンタクトレンズが上手く合わなかったりすると、涙が涸れてドライアイになってしまいます。年をとってからは、涙が出にくくなるだけでなく、霞目、やに目・・・色んな症状に悩まされます。


●ドライアイに特効薬はない?


 残念ながらありません・・・と諦めかけていたところ、2011年になって大塚製薬から「ムコスタ点眼液」が発売になりました。残念ながらちょっと気になる使い心地・・・べたつき感が残ります。もう1つの欠点は、


●ムコスタ点眼液を使った後に、口のなかに強い苦味を感じる人が多い。


 有効成分のレバミピドという苦い成分が、目から鼻に抜ける涙鼻管を通って口に入り、苦味を感じるのです(図を参照)。ですから食事の前に点眼すると、何とも妙な味覚になってしまうのです。もしムコスタ点眼液の苦味を除去出来たら、それは結構役に立つと思われます。



 今年3月、日本薬学会の年会で、武庫川薬科大の発表に注目しました。


●ムコスタ点眼液を使う前にコーヒーを飲めば、苦味を感じない(詳しくは → こちら)。


 この話とはまったく別に、2012年、東大医学部眼科学教室から、ドライアイ治療について、びっくりするような論文が発表されています。


●カフェインを飲むと、涙の量が増えて、ドライアイが解消する(詳しくは → こちら)。


 決まった量のカフェインを飲んで、増えた涙の量を、瞳に溜まる涙の厚みで測定したのです。被験者はベッドに横たわって、天井を見ながらの実験のようでした。筆者が残念に思ったのは、「コーヒーを飲んで実験して欲しかった」ということです。でも実験科学の常道としては、再現性のあるデータを得るには、カフェインを使わないわけには行きません。正確に体重に合わせた量のカフェインを飲んで実験したのです。科学実験とはそういうものですから・・・。


 今年になってこれと似た研究結果を、ガーナとナイジェリアの研究グループが国際誌に発表しました(詳しくは → こちら)。


 ということで、コーヒー1杯でどれだけの涙が出るのか、筆者には実感できませんが、実際にドライアイの人の身になってみれば、ほんの1滴の涙が貴重な命の滴なのです。


●カフェインで涙がでる仕組みは、カフェインでおしっこが出る仕組みと同じである。


 カフェインは尿以外に、唾液や消化液の分泌もよくすることがわかっています。今回の東大の発表は、カフェインが涙の分泌にも関与(図を参照)することを示したもので、ドライアイの人にとっては本当にありがたい話です。


(第191話 完)


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