シリーズ『くすりになったコーヒー』
前回までのお話で、コーヒーを飲みながら脳トレーニングをすれば、脳に新たな神経回路ができて、もの忘れの少ない脳でいられる可能性がありそうです。コーヒーには、疲れた脳を蘇えらせるパワーがあるように思えます。今回は、コーヒーを飲めば、脳神経だけでなく、疲れた筋肉も蘇えるというお話です。
長い間、スポーツで筋肉が疲れるわけは、運動で増える乳酸のせいだと言われてきました。しかしこの言い伝えには、何の根拠もなかったのです(詳しくは → こちら)。
乳酸に変わって登場したのは、疲労因子(Fatigue Factor:FF)と疲労回復因子(fatigue RecoveryFactor:FR)というわかり易い仮説ですが、具体的な中身は未だ揃っていません。それでもNHK番組「あさイチ」が取り上げたほど、世のなかの関心は高いのです(詳しくは → こちら)。
信頼できる「筋肉疲労の科学」が、古くて新しい筋肉成分に見つかっています。
●渡り鳥や回遊魚の筋肉には、疲労を防ぐ抗疲労物質がある(詳しくは → こちら)。
下の表をご覧ください。代表的な抗疲労物質は、カルノシン(化学名:β-アラニル-L-ヒスチジン)です。その仲間に、アンセリンとバニレンがあります。
ヒトを含めて陸上哺乳類はカルノシン、鳥と魚はアンセリン、クジラはバニレンというような特徴があります。大阪大学の研究グループは3つまとめて「イミダペプチド」と呼んでいます。国際的には、イミダゾールジペプチドと呼ぶのが普通です。
表の数値をグラフにしてみました(下図を参照)。
この図から、動物の運動持続能力が高いほど、イミダペプチドの量が多いことがわかります。イミダペプチドは、カジキマグロや大型の渡り鳥が、長時間の運動に耐えるために必要な物質だそうです。ニワトリは渡り鳥の進化の跡を受け継いでいるのです。
イミダペプチドの1つ、カルノシンの研究は、海外でも盛んです。
●カルノシンを飲むと筋肉疲労がとれる(詳しくは → こちら)。
カルノシンの作用について、その分子メカニズムを調べた論文も出はじめました(詳しくは → こちら)。
●カルノシンは、筋肉細胞(繊維ともいう)のカルシウム感受性を高めるとともに、細胞内の備蓄カルシウムを活用している。
カフェインを使って実験すると、筋肉繊維の種類によっては、カルノシンの作用が強くなることがわかりました。カフェインとカルノシンの協働作用が、ヒトの少ないカルノシンでも、家畜やニワトリ程度には強めてくれるらしいのです(図を参照)。その訳は、カフェインには、筋肉細胞のカルシウムを増やす作用があるからです(第40話:リアノジン受容体を参照)。
さらに、イミダペプチドを豊富に含む肉を選んで食べていれば、協働作用は一層強くなると言えます。参考にはならないかもですが、加山雄三さん、小林旭さん、女性なら瀬戸内寂聴さんが、今もずっと元気なのは、朝からステーキを食べているからかも知れません。でも皆さんもうお年ですから、無理してたくさん食べなくても、コーヒーとお茶を増やしてみては如何でしょうか?
ということで、次回は日本人の60%が感じている「疲れ」についてまとめます。
(第183話 完)
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