シリーズ『くすりになったコーヒー』


 聞き慣れない用語解説です。ちょっと難解ですが、「頑張れば脳の神経が成長する」という、最先端のお話です。


●長期増強という神経生理学の現象は、コーヒーの効き目と関係しています。
疫学調査によれば、コーヒーはパーキンソン病とアルツハイマー病を予防します。動物実験では、カフェインが脳の神経細胞を守っています。ではそのメカニズムは? 確かな証拠が1つ見つかりました。


●コーヒーを飲むと脳神経の長期増強が保たれる(詳しくは → こちら)。


 ここで長期増強について思い出してください(第177話 ストレスとコーヒーを参照)。長期増強とは、シナプス(神経接合部)でつながった2つの神経細胞のうち、信号を受けるほうの神経(シナプス後神経)の興奮が強まることでした。この状態が持続すると、後神経の可塑性(柔軟性)が高まって、新たに神経突起(スパイン)ができてきます。スパインは、別の神経先端部と新しいシナプスを作って、やる気と記憶力の向上、つまり学習能力の向上につながるのだそうです。


 整理しますと、次のような順番で、やる気と記憶力が向上します。


●脳トレーニング → 前神経への刺激→ 後神経の長期増強→後神経の可塑性増加→スパイン新生→シナプス新生 → 神経回路の複雑化 → やる気と記憶力の向上



 シナプス前神経に刺激を与えていると、シナプス後神経に変化が起こります。この変化が持続することを長期増強(LTP:Long Term Potentiation)と呼び、結果として、やる気が起こり、記憶力が向上することがわかってきました。


 図1の電子顕微鏡写真を見てください。スパインとは新たな神経突起のことで、図1では赤く着色してあります。そのスパインが、次に新しいシナプス(緑色で着色)を作って、神経回路の複雑性を向上させます。ではその分子メカニズムを図2に模式化してみます(詳しくは → こちら)。


 嬉しいことに、図2のなかに、コーヒーのカフェインが入り込む場所が見つかりました。


●コーヒーのカフェインが、シナプス後神経細胞のなかにあるCaMK?に作用すると、新たなスパインが増えてくる。


 体のいたる所に分布しているタンパク質カルモジュリンは、カルシウムと結合して、炎症反応、免疫反応、神経成長などの他、長期記憶に関与しています。このとき細胞内の何種類ものタンパク質がリン酸化されて、事が運びます。神経細胞に特に多い酵素CaMK?は、カフェインの刺激を受けると、リン酸化酵素として働いて、スパインを形成し、長期増強に関与することがわかりました。


 CaMK?は、神経細胞の核にも作用し、神経成長因子BDNFを作ります。BDNFは文字通りに、神経細胞の成長を助け、CaMK?と協働してスパインを作り、シナプスを増やしているのです。


 細かなメカニズムはこのぐらいにして、コーヒーが脳機能を若く保つ、貴重で又とない飲みものであることを強調したいと思います。


●年をとってからでも、毎日未経験の刺激に挑戦するとき、コーヒーを飲みながら頑張れば、脳神経に新しいスパインとシナプスを作って、脳の働きを高く保つことができる。


 さあ中年を過ぎたご同輩方々、日々新たな体験に挑戦しましょう。そのときコーヒーを飲むことを忘れてはなりません。その1杯が、毎日の努力を限りなく希望の星に導いてくれるはずです。


♪♪1杯のコーヒーから夢の花咲くこともある。


(第182話 完)


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