シリーズ『くすりになったコーヒー』


 「全死亡率とコーヒー」の関係について、8月26日付の朝日新聞に不可思議な記事が載りました。最近コーヒーを勧める記事を多く書いている同紙なのに、一体どうしたというのでしょうか?


●55歳以下の男性では、1日4杯以上のコーヒーを飲むと全死亡リスクが1.5倍、女性なら2.1倍に高まる(詳しくは → こちら)。


 これまでのデータと比べますと、真逆と言ってよい内容です。最も信頼できる過去の論文は、2012年のニューイングランド医学誌に載っていて、コーヒーを飲んでいる人では、疾患ごとの死亡リスクが低いので、全死亡リスクも下がるという内容でした(詳しくは → こちら)。
図1をご覧ください。



 男性も女性も、1日4、5杯までのコーヒーならば、飲む量に応じて全死亡率が下がるのです。死亡リスクを疾患別にみると、コーヒーを飲む人では、癌以外の病気・・・糖尿病、心臓病、肺疾患、脳卒中、感染症、事故(怪我)、その他による死亡リスクが下がので、納得できる内容でした。


 更にもう1つ。ごく最近になって、「コーヒーと全死亡リスク」のメタ解析論文が複数発表されています。それらによると、「コーヒーを飲んでいる人の全死亡リスクは、飲まない人より低い」との結論です(詳しくは → こちら)。


 では、今回朝日新聞が掲載した「コーヒーは死亡リスクを高める」という原著論文に、
これまでの結論をひっくり返す中身があるでしょうか? その中身を、図1と同じ手法で描き直すと、図2のようになりました(詳しくは → こちら)。



 図2では、女性でも男性でも、コーヒーを飲むと全死亡リスクが高くなるのです。コーヒーを飲む量と死亡リスクの関係は必ずしも比例していませんし、統計学的有意差も乏しいのですが、1日4杯以上を飲む人の死亡リスクは、飲まない人より高いという結果で、図1とは逆になっているのです。


 図2のデータには更なる疑問が持たれます。疾患別死亡リスクが心血管系疾患について解析された結果、共変動因子を補正したときの死亡リスクは0.73に下がっていました。ですから何とも言いようがありませんが、コーヒーを飲むとなぜ全死亡リスクが高くなるのか、論文の著者は更なる調査が必要だと述べています。しかし、いくら調べ直してみても、過去のメタ解析結果をひっくり返すとは思えません。


 以上をまとめますと、コーヒーにとってどんなに厳しく評価しても、次のように言えるでしょう。


●1日3、4杯までのコーヒーは安全で、がん、糖尿病、心臓病、肺疾患、脳卒中、感染症、事故(怪我)、その他の多くの病気を予防する。


もう1つ追加で書きますと、8月27日の朝日新聞で、天声人語氏曰く、「コーヒーを可否としたのは慧眼だった」。これまでは確かにそうでした。でもこれから先のコーヒーの当て字は「珈琲」であり、そうなることでPPKが見えてくるというものです。


(第181話 完)


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