シリーズ『くすりになったコーヒー』
前回、「ストレスがあると腰痛は治らない」というNHK番組を紹介しました。今回はそのストレスにコーヒーのカフェインがどう働くか、最新科学を掘り下げます。
●「カフェインは覚醒作用を示す」と言われるが、覚醒剤とはまったく違う。
カフェインの覚醒作用とは「眠気が覚める」ことで、興奮なんかしません。覚醒剤の覚醒とは、中枢神経を攪乱する興奮作用です。
興奮作用とは、身体の各部分がもっている本来の働きを強くする作用のこと。例えば心臓なら、脈拍が早くなったり、拍出量が増えたりすることです。カフェインにそういう作用はありません。稀に「コーヒーを飲んで胸がドキドキ」する人がいて、それが原因で
「カフェインには興奮作用がある」と言われてしまうのです。
さて、人がストレスを受けると、受けた直後に劇的な生理変化が起こります。脳が細胞や組織を“しゃきっ”とさせる変化です。“しゃきっ”とさせる作用の本体は、2つのストレスホルモン、コルチゾールとアドレナリンです(下図参照)。
ストレスホルモンの働きは、体内の備蓄栄養を筋肉や脳へ送って、気力体力を活性化すること。脳では神経細胞の刺激伝達を持続的に強めます。
●神経細胞の刺激伝達を持続的に強める作用は「長期増強」と呼ばれ、ストレスに対する抵抗力を生み出している。
しかし、強過ぎるストレスが長く続くと、長期増強は疲れ果ててしまいます。それが原因でうつ病になってしまうほどで、いま世界中で盛んに研究されています。そして遂に、コーヒーの魅力に迫る論文が発表されました。
●ラットに毎日カフェインを飲ませていると、ストレスを受けても長期増強が疲労しない(詳しくは → こちら)。
人が受ける社会的ストレスと似たストレスが、ラットで再現できるようになりました。“よそ者ストレス”とは、例えばラット6匹ずつを2つのケージで飼育して、毎日2匹ずつを入れ替えます。するとラットは落ち着かず、日数が長引くと長期増強が疲労して、うつ状態で餌も食べなくなるのです。
【論文の結論】カフェイン入り飲料水で飼育しているラットは、“よそ者ストレス”を受けても披露しない。図をご覧ください。
これはカフェインand/orストレスを与えながら4週間飼育した最終日の実験です。0点から脳の海馬の神経にパルス電流刺激を連続して与え、その神経とつながった次の神経の興奮強度を、「興奮性シナプス後電位」として%で示してあります。数値が高くなれば脳の神経が正常につながっている証拠です。
●ストレスを与えながら飼育したラットの興奮性シナプス後電位は最大120%だった。
●カフェインを飲ませながらストレスを与えて飼育したラットの興奮性シナプス後電位は最大160%に達した。
ということで、カフェインは持続するトレスから脳の神経を守っていたのです。人の場合、確かなことは言えませんが、コーヒーを飲んでいる人に鬱病は少なく、自殺者の割合も低いという、今月2日発行の疫学研究論文は示唆的です(詳しくは → こちら)。
最後に、NHK番組と合わせて考えますと、「カフェインが脳の側坐核神経をストレスから守ってくれるので、脳内麻薬の鎮痛作用が正常に働いて腰痛を感じなくなる」ということになるはずです。
(第177話 完)
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