シリーズ『くすりになったコーヒー』


 長い間「コーヒーメタ解析」にお付き合いくださってありがとうございました。今日から新シリーズを始めます。メタ解析では話題にならなかった「病気とコーヒーの関係」です。こういう情報は確立しているとは言えませんが、将来確立すれば面白いし、役に立つ話になるかも知れません。今日は4人に1人が悩んでいるという「腰痛」の話です。
つい最近、7月2日のNHK番組「クローズアップ現代」で、椎間板ヘルニアの興味ある内容が放送されました。


●MRIで椎間板ヘルニアが見えなくても痛みが出る人は、ストレスの大きい人である(詳しくは → こちら)。


 最初に痛みを感じたときは、確かにヘルニアがあったとしても、年月が過ぎて小さくなって、MRIでは映らなくなってしまうそうです。それでも痛みだけは残るので、原因不明になってしまうというわけです。しかし最近の研究によって、そういう人は「日常ストレスの強い人」だということが解ってきたのです。


●ストレスを消せば腰痛が消える。


 これが今回の放送のポイントでした。「ではコーヒーが効くんじゃない?」と筆者は思ったのです。腰痛の人、一緒に頑張りましょう。



 かくいう私も椎間板ヘルニアが大爆発しました。その時、東京旗の台の某教授、筆者の大袈裟な痛がりようと典型的ヘルニア画像を見て突然大笑いしたのです。正直言って「この野郎っ冗談は止めてくれっ!」と思ったのですが、立場が逆だったら同じかもと我慢したのでした。


 さて、ストレスを癒してくれるというコーヒーを飲んだらどうなるでしょうか?当時の筆者はコーヒーを飲まない人だったので、残念ながら自分で試したことがありません。


●慢性腰痛の人は、そうでない人の2倍以上のカフェインを飲んでいる(詳しくは → こちら)。


●カフェイン飲料を飲んでいる人と飲まない人で、腰痛の程度に差はないが、大量に飲む人では、カフェインの影響がカフェイン以外の乱れた生活習慣に隠されてしまう(詳しくは → こちら)。


 つまり、カフェインが痛みを増すという論文と、関係なさそうという論文があるのです。この2つの他にコーヒーと腰痛の関係を書いた論文は見当たりませんでした。


 それにも拘らず、「腰痛持ちはコーヒーを飲んではいけない」と言うのは何故でしょうか? 痛みクリニックのほとんどすべてが、カフェインやコーヒーを悪者にしているのです。米国でも同じです。典型的な例がホリスティック医療のホームページに載っていました(詳しくは → こちら)。


 ここには、「カフェインが炎症を促進して痛みを強める」と書かれています。ところが、最近の論文を読んでみますと、実に多くの論文が「カフェインは抗炎症作用を示し、痛みには補助的鎮痛作用を示す」となっています。筆者も2編の論文を書きましたし、有名なコクランデータベースにも総説論文が載っています(詳しくは → こちら)。


 では次にストレスの影響です。


●過剰なストレスが長続きすると、ストレスホルモンも枯渇して、筋力も弱って腰痛が出る。


●そんなときカフェインを飲むなんて、疲れた馬に鞭を打つようなものである。


 ということで、素人にはついつい納得しそうな説明がたくさん出てきます。米国ストレス教育センターのホームページにも、「カフェインを飲まないように」と書かれていました(詳しくは → こちら)。


 でも皆さん、疲れたときほど美味しいコーヒーを飲みたくなるのではありませんか?世間の評判は別にして、学術論文に目を通しますと、カフェインがストレスを増強するなどとはどこにも書いてありません。残念なことにクローズアップ現代でも、「ストレスとコーヒー」の話はありませんでした。


●毎日カフェインを飲んでいると、ストレスが原因の体力低下を予防できる(詳しくは → こちら)。


 ですから、コーヒーはストレスを抑えて、腰痛を和らげるのではないかと思えるのです。次回は、カフェインとストレスの関係をもっと掘り下げてみることと致します。


(第176話 完)


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