シリーズ『くすりになったコーヒー』


 昔、コーヒーは胃の薬として珍重されていたそうです。日本に伝来した頃も、胃薬として漢方薬と一緒に飲むことがあったようです(詳しくは → 珈琲一杯の薬理学)。現在ではそういう使い方はされませんが、コーヒーを飲むと食欲が増したり、逆に抑えられたり、またはお通じが良くなるという人は結構いるようです。人によっては健胃整腸剤とでも言えるのかも知れません。


 さて、「コーヒーのような焼け焦げは胃に悪いのではないか?もしかしたら胃がんの原因になるかも知れない・・・」というような疑問を抱きつつ、コーヒーと胃がんの関係を調べる疫学調査が行われました。他のがんに先駆けて、2006年にメタ解析論文が発表されています。今日はその論文の紹介です。尚、その後にメタ解析は行われていませんが、世界各地からの疫学データはバラバラで、「リスクを下げる」と「リスクを上げる」が半々の状態となっています。


 図は2006年に発表されたメタ解析論文からの引用です(詳しくは → こちら )。



 全部で23編の原著論文のなかに、男女別にリスクを計算した論文が多く混ざっています(図の青四角とピンク四角)。ならばリスクの男女差に共通の傾向があるかといいますと、必ずしもそうではありません。コーヒーと胃がんの関係には一見男女差があるかのようですが、全体を見ると「たまたまの結果」としか言いようがないのです。


 胃がんになると、以前好きだった食べものでも、食べたくなくなることがあるそうです。コーヒー好きの人が胃がんになって、コーヒーを嫌いになったり、飲みたいけど胃に悪いからと止めたりすれば、そのことが調査結果に影響するでしょうか?Yes大いに影響するのです。胃がんでコーヒーを飲まなくなった人が多ければ多いほど、「コーヒーを飲まない人が胃がんになる」という調査結果が出てくるからです。コーヒー疫学調査の結果のバラツキは、こういう不確実性を除去することが想像以上に難しいからと思われます。


 何は兎も角、「コーヒーと胃がん癌はほとんど関係ない」という調査結果は、まずは歓迎すべきことではないでしょうか?以前、「秋刀魚の焼け焦げが癌になる」という俗説が生まれても、間もなく否定されたことがありました。「コーヒーで胃癌になる?」という疑惑も、一応晴れたと考えて良さそうです。


(第165話 完)


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