シリーズ『くすりになったコーヒー』
2010年に発表された「コーヒーと肺癌リスク」の疫学調査によれば、
●コーヒーを多めに飲んでいる人の肺癌リスクは、飲まない人の1.27倍である。詳しくは → こちら )。
コーヒーを1日に2杯程度の人でも、リスクは1.14倍に増えるので、その分だけ肺癌に罹りやすいというのです。このメタ解析は上海医薬工業研究院の専門家ナピン・タンらのものですが、解析対象は世界各国から発表された原著論文ですから、結果の信憑性は十分高いと思われます。
もう少し詳しく見てみましょう。図をご覧ください。
全部で13編の原著論文のうち、4編でリスク軽減が認められますが、他の9編では逆にリスクが高くなっています。平均するとややリスクが高まる(赤字)という結果になっているのです。
さて、肺癌と言えば喫煙が最大のリスク因子で、日本人男性のリスク増は4.4倍、女性では2.8倍という数字が出ています。この数字は国立がん研究センターの津金昌一郎博士らの研究によるもので、同センターのホームページにも載っています(詳しくは → こちら )。
では、タバコに比べてコーヒーの数字は小さくて問題にならないかと言いますと、そんなことはありません。日本も欧米並みにコーヒーが普及したとはいえ、統計によれば平均年間20杯程度しか飲んでいません。もしこれが、フィンランド人のように年間1212杯も飲むようになるとしたら、肺がん患者数は一気に2万人程度増える計算になるのです。そうなるまでにはまだ何年もかかるでしょうから、その間にコーヒーで肺癌になる原因物質を究明して、それを除去する方法を考え出せばいいのです。
●フィンランド人は日本人の60倍も多くコーヒーを飲んでいるのに、肺癌による死亡率は日本人より少ない。
でもこの結果は喫煙率によるのかも知れません。日本人男性は36.6%、フィンランド男性は21.9%の喫煙率なのです。しかし、喫煙率によるデータ補正もまた困難なことです。何故なら、喫煙による肺癌の発症には30年近いラグがあるからです。30年前のフィンランドでは、もしかすると日本人より高い喫煙率だったかもしれないのです。
コーヒーと肺癌の関係について、納得できる説明があるとは言えません。当分の間は、コーヒーの飲み過ぎは心臓病だけでなく、肺癌リスクにも影響すると考えて、ほどほどに飲むに越したことはないのです。
(第162話 完)
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