シリーズ『くすりになったコーヒー』


 大腸癌とコーヒー飲用の関係について、最初のメタ解析論文を発表したのはハーバード医科大学のギオバヌッチ博士で、1998年のことでした。結果は後向き研究と前向き研究で大幅に食い違っていましたが、どちらかと言えば「コーヒーは大腸癌リスクを低下させる」というものでした。


 ギオバヌッチ博士は10年後の2009年になって、2度目のメタ解析を行いました。その結果は日本女性にとって嬉しいものでしたが、欧米の人にとってはやや期待はずれのものでした。


●コーヒーを飲まない女性の大腸癌リスクを1.00とすると、コーヒーを飲む女性のリスクは0.83に減少し、特に日本人女性の結腸癌だけを見ると0.62に減少する(詳しくは → こちら )。


 同じころ、ミラノ大学のガリオン博士らもコーヒーと大腸がんのメタ解析を行っていました。その結果は、ハーバード医科大学とは違って、結腸癌で0.70、直腸癌で0.75と、ともにリスクの軽減が見られたのです。ガリオン博士はこの結果について、「大腸癌を発症して自覚症状が現れてくると、いくらコーヒー好きの人でも、コーヒーを止めたり量を減らしてしまう」ということが原因となって、「コーヒーを飲まない人ほど大腸癌になり易い」という調査結果になる可能性を否定し切れないと書いています。


 このように大腸癌とコーヒーの関係に関しては、疫学研究の信憑性が今一つ不足しています。では日本での研究を見てみましょう。国立がん研究センターの津金昌一郎博士は、大腸癌を、粘膜内に留まっている場合と、粘膜の範囲を超えて周辺組織に広がっている場合(浸潤結腸がん)に分けてコーヒーとの関係を解析しました。その結果はグラフに描かれてホームページに公開されています(図を参照)。



 このグラフから解ることは、コーヒーを1日3杯以上飲む人では、浸潤結腸がんになる確率が、40%にまで下がっているということです。これは重要な発見です。例え癌になることを避けられなくても、重症化することを予防できるということなのです。同じような現象は前立腺癌でも認められています。今後はこういう視点でのメタ解析ができるようになることを大いに期待したいものです。


 以上に書きましたように、大腸癌のメタ解析は繰り返し行われてきましたが、詳しいことはまだ先に延ばされたような気配です。今までにはっきりしたのはただ1点です。


●コーヒーを飲む日本女性は浸潤結腸癌になるリスクが低い。


 どうやら、日本女性であることと日本に住んでいることが、コーヒーの大腸癌予防効果が現われる条件になっているのかも知れません。


(第161話 完)


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