シリーズ『くすりになったコーヒー』
乳房の発癌には次の3つの遺伝子が関わっているそうですが、これら3つとは無関係な発癌もあるようです。
1.エストロゲン受容体(ER)
2.プロゲステロン受容体(PR)
3.ヒト上皮細胞増殖因子受容体2型(HER2)
4.1〜3とは無関係(トリプルネガティブ)
この分類は乳癌治療の際の抗癌剤選択にとって非常に重要だと考えられています。選択を間違えると、治る癌も治らないということになってしまいます。
●コーヒーと乳癌の疫学調査は上記の分類には配慮していない。
これから紹介するメタ解析では、18編の原著論文を集計してありますが、癌細胞の遺伝子型には配慮せず、どれも「乳癌」として同じ1くくりになっています。研究したのは中国南京大学のグループで、論文の結論として、「コーヒーを多めに飲む人の乳癌リスクは飲まない人より低い可能性がある」と書かれています(詳しくは → こちら )。
しかしこれには見解の相違があると思います。論文から引用した図を見てください。
この図は、コーヒーをほとんど飲まない人の乳癌発症率を1.00としたとき、コーヒーを1日4〜5杯以上飲む人の相対リスクを計算したものです。図の上方を見ますと、後向き研究論文9編のメタ解析で、コーヒーを飲む人の相対リスクは0.95となっています。論文ごとに比べてみますと、リスクが1以下と1以上のものは5と4で、ほぼ半々の数になっています。
次に図の下半分を見ますと、前向き研究論文9編のメタ解析で、コーヒーを飲む人の相対リスクは同じく0.95となっています。個々の論文を比べますと相対リスクが1以下のものが7編あって、1以上のものよりやや多い傾向があります。
更に全体のメタ解析でも相対リスクは0.95のままでした。このような結果を見て、コーヒーを飲むことで乳癌リスクが下がるとはとても言えそうにありません。逆にリスクが増えるとも言えませんから、結局、「コーヒーと乳癌とは何の関わりもない」と言えるのではないでしょうか。
現状でのメタ解析は以上のような結果ですが、個々の疫学論文にはこんな論文も発表されています。
●遺伝子分類してコーヒーと乳癌の関係を調べると、コーヒーによるリスク軽減が認められる。(詳しくは → こちら )。
研究したのはスウェーデンのカロリンスカ大学など国際共同研究グループで、女性ホルモン受容体ERとPRが陽性と陰性の乳癌に区分して調べました。すると、これらの受容体が陰性の人がコーヒーを多く飲むと発癌率が低くなるという結果になりました。こういう研究の数はまだ少ないのですが、やがて日本をはじめ各地の研究結果が出そろえば、新たなメタ解析研究が始まるのだと思われます。
●現状では、コーヒーは全体として乳癌リスクと無関係であるが、ある種の遺伝的要素をもつ人では、リスクが低下している可能性がある。
早期発見で乳癌を克服するのが一番です。
(第160話 完)
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