シリーズ『くすりになったコーヒー』
いきなり年末の話で恐縮ですが、NHK「あさイチ」がやってくれました(12月28日)。
●100歳を超える女性の血中アディポネクチンは20代女性の倍も高い(図1を参照)。
あたかも「血清アディポネクチンが高い女性ほど元気で長生きしている」と思っても仕方ない雰囲気でした。20代の女性が恐怖に慄いている図1は、このジャンルの先駆け、慶応大グループのデータに基づいています(詳しくは → こちら )。
100歳を超えたお婆ちゃんは「また1つ正月が来た」ということで大喜びのようですが、ちょっと待ってください・・・ひょっとして「血清アディポネクチンが高いほどその日が近い」ということかも知れませんから。
100歳を過ぎるとなぜアディポネクチンがこうも高くなるのでしょうか?これには色々な見方がありそうです。
(1)「あさイチ」が言っていたように、もともと高い人が長生きするから。
(2)誰でも年とともに増えるので、誰でも100を超えれば最大値に近づくから。
(3)老化が進むと傷んだ部分を修復するように増えるから。
(4)その他
原因は99%脂肪細胞にあるはずです。脂肪細胞は抗炎症性の善玉タンパク質(アジポネクチン、レプチンなど)と、炎症性の悪玉タンパク質(TNFアルファ、CRP、IL-6など)を作っています。ただし「どっちをどれだけ?」ということは、簡単にはわかりません。そこで2005年、札幌医大の研究グループが30歳台から80歳台までの善玉アディポネクチンを調べました(詳しくは → こちら )。
続いて慶応大グループが100寿者を調べたということです。
●どんなに健康な人でも、年をとると善玉・悪玉のバランスが原因で、病気にもなるし、やがては死を迎える。
そんな1つ目の研究は慶応大学グループのもので、100寿者のアディポ・リスク・スコア(ARS)を点数化し、ARSと生存率の関係を比べました(詳しくは → こちら )。
【ARSの内訳】下記1〜3の検査結果が当てはまったら各1点とし、3項目の合計点が0〜3点の4グループに分類する。
1.高分子量血中アディポネクチン(善玉)<10.1μg/dLの場合 → 1点
2.血中レプチン(善玉)<2.6 ng/dLの場合 → 1点
3.血中TNFアルファ(悪玉)>3.80 pg/mLの場合 → 1点
結果は図2をご覧ください。ARS=3の人が3年以内に全員亡くなられたのに対し、ARS=0の人では6年以上(100歳を過ぎても)長生きする人がいるのです。
2つ目の研究はコーネル大学グループのもので、平均年齢はやや若い85歳の高齢者です。アディポネクチンと炎症性マーカー(CRPとIL-6)それぞれの血中濃度が高いか低いかで分類し、高と低の異なる組み合わせグループの累積死亡率を調べました(詳しくは → こちら )。
【高・低組み合わせの内訳】アディポネクチンと炎症性マーカーとが、高・高、低・高、高・低、低・低の4グループに分類する。
結果は図3をご覧ください。累積死亡率が最も低かったのは低・低の組み合わせでした。言い換えれば、慶応大の研究結果とは逆で、アディポネクチンが低い人で、ただし同時に炎症性マーカーも低い人が長生きしているのです。一方、アディポネクチンが高くても、炎症性マーカーが同時に高い人は早く亡くなってしまいました。
慶応大とコーネル大では、調べた悪玉の種類が違っているので断言はできません。慶応大はどちらかと言えば善玉重視、コーネル大は悪玉重視とも言えますが、もっと確実に言えることは、「アディポネクチンが高い女性ほど長生きするわけではない」ということです。
では最後に、コーヒーについて驚きのデータです。
●コーヒーを飲むとアディポネクチンが増えて炎症性マーカーが減る。
これまでにコーヒーとアディポネクチンの関係を調べた論文10編ほどが発表されています。そのほとんどすべてがコーヒーを飲むとアディポネクチンが増えると書いています。更に、複数の論文が炎症性マーカーが低下すると書いています。さらに、これら以外にも、カフェインがTNFアルファを低下させると書いた論文が多く見つかります。これらを総合しますと、毎日コーヒーを飲むということは「慶応大のARS=0」を目指すことを意味しています。詳しくは又いつかお話することと致します。
(第158話 完)
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