シリーズ『くすりになったコーヒー』


 カフェインを含む飲料と言えば、お茶とコーヒー。お茶は葉をコーヒーは種を飲用として、そこにカフェインが入っています。他にもカカオやコーラがありますが、含有量はずっと少ないので問題になりません。だが、しかし・・・花と蜂蜜にもカフェインがあること、専門家でも知る人はほとんどいません。


以下は、ネット・サイエンス誌 ResearchGate: Espresso Coffee-Chapter 2: The Plantから、カフェインの記述を抜粋して翻訳したものです(原著論文を読みたい方は筆者まで)。


2.4.5花から果実へ


 コーヒーの開花と果実が完熟するまでの時間経過は、コーヒー種(アラビカ、カネフォラ、その他)の間でかなり異なる。さらに遺伝子型のみならず、気候や農民の生活文化にも依存する。アラビカとカネフォラは6〜8ヵ月と9〜11ヵ月を要している(Guerreiro Filho、1992)。


 予想に違わず、花のすべての部位にカフェインが含まれていて、濃度は雄蕊に最も高い。同時に微量のテオブロミンの他に、ようやく検出できる程度のテオフィリンも見つかった。このことから、雄蕊部分ではテオフィリンがカフェインの前駆体であると考えられる。一方、葉と種子のカフェイン生合成は、テオブロミンを直接の前駆体として進行することが示された。一方、一部の柑橘類では、カフェイン濃度の最高値はタンパク質の豊富な花粉である(Kretschmar and Baumann、1999)。我々は、コーヒーも柑橘類と同じように、カフェインは優先的に花粉にあると考えている。しかし、未だ分析したわけではない。多くの昆虫とは対照的に、ミツバチはカフェインに驚くほど耐性であるばかりでなく(Detzel and Wink、1993)、カフェイン摂取後は若い女王バチの産卵を刺激し、巣箱の外での運動を活性化し、巣の入り口ではスズメバチに対する防御能が強くなる(Kretschmar and Baumann、1999)。


 花がコーヒーの木から落ちると、枝に残った子房が緑色のコーヒー果実に成長する(図2.6および図2.7)。果実の形成には大量の栄養が必要で、しかも虫害から守るための巧みな戦略が用意されている。


 第一に、若い緑色の果実は葉柄の付け根にある(図2.6)。第二に、クロロゲン酸類とカフェイン類の両方が高濃度であり、第三に、実際の胚乳の発達は果皮が十分に発達した後で進行する。この第三の現象が、コーヒー果実の発達で最も重要である。開花後3-4ヶ月以内に、まだ緑色の果実は、成熟の準備完了の大きさまで成長する。横断面には、典型的に巻き上げられた2つの緑色の豆が見える。しかし、見た目と違って、果実は依然成熟しておらず、2つの豆は親木の組織でできている外胚乳に過ぎない(Carvalho et al、1969)。果実を茎に向かって縦に切ると、胚乳発育の始まりが見られる。白っぽくて非常に柔らかい組織(液体胚乳とも呼ぶ)は、外胚乳に侵入して再吸収される。最近の研究では、糖類や有機酸などの代謝産物は内胚乳に吸収されると考えられている(Rogers et al、1999b)。以上のプロセスは、コーヒーの発芽に際して子葉が胚乳に入り込んでいるのと似ている:代謝産物はある組織から他の組織に移動し、いわゆるアポプラスト(発芽中の胚乳と子葉の間に存在する組織)が形成されるようで、高い生合成活性に基づく複雑な組織なのである。結論として(抽象的に言うなら)、コーヒーの次世代への道は、代謝産物が2回往復移動することで特徴づけられる。


 このような浸潤過程の間、果皮は固くなってパーチ層を形成する(2.4.2および2.4.3参照)。胚乳はアラビノガラクタンとガラクトマンナン(Bradbury、2001)を含む厚い細胞壁を作って強化される。(中略)子嚢には開花直後から相当量のカフェインが蓄積し、その濃度は熟成するまで変わらない。しかし、最初の高濃度(> 2%)のカフェイン濃度は、さらなる成長および成熟プロセス中に、果皮が3つの層に分離することで、約0.2%まで低下する:丈夫な内果皮は、鳥や哺乳類が食べた種子を腸内消化酵素から保護しているし、高濃度の糖を含む(Urbanejaら、1996; Golden et al、1993)中果皮(mesocarp)は、アントシアニンで着色した鮮やかな外果皮(exocarp)を伴って、それを目当てに集まる種子分散動物の食欲を刺激するのである(Barboza and Ramirez-Martinez、1991)。




 最後に、日常生活におけるコーヒーと生化学・生態学の係わりについて、私たちの考えを述べておく。エスプレッソ豆のカフェインは豆のどの部分でできるだろうか?カフェイン生合成については多くの刊行物(総説論文はAshihara and Crozier、1999を参照)があるが、その答えは書かれていない。従って推測以外に方法はないが、明らかに、胚乳はカフェイン生合成能力を持っている。外胚乳に由来するカフェインは全体の約3分の1に相当している(Sondahl and Baumann、2001の図10.5を参照)。しかし、それ以外にも起源がある。カフェインは明らかに外皮から発達中の種子に移動してくる。この現象は、外胚乳/内胚乳に高濃度で分布しているクロロゲン酸と似ている。カフェインの移動経路についてこれ以上は解らないが、おそらく果実の発育時間とクロロゲン酸の移動の両方に依存して、果実の発育が遅いほど、果皮よりも種子に移動するクロロゲン酸の量が多くなり、カフェインもそれに準じている。繰り返すと、クロロゲン酸の生合成、輸送および蓄積は、最終的にどの部位にカフェインが多くなるかを決める要因になっている。結論として、外胚乳と外果皮は種子にカフェインを供給するために大事だが、葉と果皮と緑色の外胚乳は、種子にカフェインを集めるために不可欠なクロロゲン酸の大部分を供給している。しかし、親組織としての葉と内胚乳および胎芽の寄与の程度はまだ分かっていない。コーヒー種子の発達生物学(Marraccini et al、2001a、2001b)と同時に、カフェインとクロロゲン酸含量の異なるコーヒー種間の相互交配についてのさらなる研究(2.4.4、芽から葉まで)によって、エスプレッソの未だ不明な闇に光が当ることになるだろう。


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●写真は市販準備中の花茶と蜂蜜:



(第371話 完)


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