シリーズ『くすりになったコーヒー』


 コーヒーと脳卒中(脳梗塞と脳出血)の関係は、コーヒーと心不全の関係と似ています。似ている点は以下の通りです。


(1)世界各地の疫学調査では、コーヒーは脳卒中のリスクを上げるのか下げるのか、はっきりしなかった。


(2)リスクを下げるという論文であっても、必ず「飲み過ぎには注意が必要」と書いてある。


(3)コーヒーと脳卒中の関係は、血圧や喫煙などの影響を強く受けるので、小規模調査では正しい結論が得られない。


 結局、昨年発表された大規模メタ解析を待ってようやく結論が見えてきました。メタ解析に基づく「コーヒーと脳卒中の関係」は、心疾患とよく似たJ字型の関係でした(詳しくは → こちら )。



●1日3〜5杯のコーヒーは、脳卒中のリスクを減らす。


 図から解ることは、赤い帯が下向きにたるんでいる部分では、脳卒中のリスクが下がっているということです。正確に言えば、コーヒーをほとんど飲まない人の発症リスクを1.00としたとき、1日3〜4杯のコーヒーを飲んでいる人たちのリスクは平均0.80まで下がります。逆に1日7杯以上飲む人たちは、脳卒中リスクが1を超えてしまいます。10杯以上も飲んでいる人たちは、いつ脳卒中になっても不思議はないのです。


 脳卒中にも色々ありますが、くすりを飲んで予防できるのは、血液が固まり易い人の場合です。身体のどこかに血液が淀んでいますと、そこで血が固まってしまいます。もし小さなかけらでも剥がれ落ちて、脳に流れ着いての毛細血管に詰まったりすれば、そこから先は脳梗塞です。これを防ぐには、血が固まらないようにするくすりを飲んで予防するのが第一です。


●コーヒーには血液を固まりにくくする(俗に、「サラサラ」にする)成分が入っている。


 色んな成分が効くのですが、今回はカフェインについて紹介します。


 救急車で搬送された急性脳梗塞患者の治療では、新薬組織型プラスミノーゲン(tPA)が奏効します。これと一緒に投与すると更によく効く新薬候補が米国テキサス大学医学部病院で治験中です。その名は「カフェイノール」と言って「カフェインとエタノール」を混ぜただけの簡単なくすりです。


 コーヒーにアルコールを入れて飲む習慣は世界各国にありますから、カフェイノールは大した発見ではないようにも思えるのですが、それなりに注目されているのです(詳しくは → こちら )。


 カフェイノールの作用機序は解っていませんが、カフェインにエタノールを加えると何故効果が出るのか、その謎に迫るヒントのような論文があります。脳のなかのカフェインは、神経伝達物質グルタメートが原因の神経死を予防するというのです(詳しくは → こちら )。


 さらに分子レベルでの研究成果によれば、脳内カフェインはグルタミン酸受容体の1つ、NMDAに結合して、その作用を遮断することが解りました(詳しくは → こちら )。


 以上の一連の研究は、カフェインが、脳梗塞が原因の神経死を予防することを示すものです。昔からあるコーヒーとアルコールの組み合わせは、思いもよらぬ予防薬だったという驚きの論文ですが、疫学調査では「飲み過ぎは逆効果」なので1日3〜4杯で止めておきましょう。


(第149話 完)


※10月1日はコーヒーの日です。


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