シリーズ『くすりになったコーヒー』


●1日3杯、多くても4杯のコーヒーは心臓病リスクを減らす。5〜6杯以上はリスクを増やす(詳しくは → こちら )。


 これはコーヒーと心臓病の関係を調べた最新のメタ解析論文です。コーヒーは心臓に良いとか悪いとか、過激なディベートが続いていましたが、このメタ解析で一応の結論が出たと見るべきでしょう。コーヒーは程よく飲むのが良いのであって、飲み過ぎれば悪玉が出しゃばってくるということで、言われてみれば当たり前の気もします。


 医学界に「コーヒーは心臓に悪い(かも知れない)」という疑問が登場したのは1976年、ニューイングランド医学誌の論文がきっかけでした。そのときの調査では、「コーヒーの飲み過ぎで心筋梗塞発作が起こる例は予想したほどに多くはない」ということでした。しかし、調査対象や調査期間が不十分でしたので、世界各地で同類の研究が盛んになりました。研究結果は論文ごとに食い違っていましたので、それを見た米国心臓病学会は、「心臓にリスクを抱えた人はコーヒーを控えるように」と指導してきたのです。


 今回紹介する論文は、初期のものから最新のものまで、すべての論文をまとめて再評価(メタ解析)したものなので、これまでバラバラだった研究結果の総括とも言えるものです。百聞は一見に如かず、図を引用しましょう。



 1966〜2011年に発表された論文の、合計14万人強のメタ解析です。14万人中の6522人(4.7%)が心臓発作を経験しました。20人に1人の割合です。この人たちが1日に飲んでいたコーヒーの杯数(図の横軸)ごとに、発作を起こした人の割合を相対リスク(図の縦軸)として示しています。基準値1.00は、コーヒーを飲んでいない人たちの発作頻度です。発作を起こした人たちのほぼ全員が赤い枠のなかに散らばって、その平均値は太い赤線のように、アルファベットのJの字に似ています。


 J字ラインの最低値は、1日3〜4杯のコーヒーを飲んでいた人たちで、その相対リスクは最低0.80まで、平均0.90に軽減されていました。思い切って言い換えれば、10人に1人が心発作を予防できたということに相当します。心発作を予防するコーヒーパワーはこの程度ですが、調査が行われた経済先進国全体としてみれば、莫大な金額の医療費削減につながっているのです。ただし、心臓病になりたくないと思っている個人個人の立場で見れば、コーヒーより確かな予防方法が色々あります。


●コーヒーで心臓病を予防するよりも、血圧や体脂肪率に注意を払う方が賢明である。


 ですから今回の論文の著者が強調している点は、次のようなことなのです。


●これまで医者は、心疾患の発作予防法の1つとして「コーヒーを飲まないように」と指導してきたが、これからは「飲み過ぎはよくないが、1日3〜4杯までのコーヒーは発作を予防する」と言って指導したほうが良い。


 かくして悪玉コーヒーの汚名がまた1つ消えました。次なる進歩があるとしたら、それは飲み過ぎると心臓に悪い原因物質を見つけ出して、そして取り除く技術を開発することです。


(第147話 完)


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