シリーズ『くすりになったコーヒー』
●良薬は口に苦し!
とはよく言ったものです。確かに薬草の成分で身体に効くものは、ほぼ例外なく苦くて食べられたものではありません。最初にそれがくすりになると知った人は凄い人だと感心してしまいます。
●苦いものがくすりになることを発見したのは、古代中国の神農(しんのう)だった(画像)。
古代中国にコーヒーはありませんでしたが、もしあったとしたら「焙煎コーヒーは毎日飲んでいても害にならない上薬」として、神農の記録に残されたことでしょう。毎日飲むコーヒーが苦くて美味しいということは、安全でよく効く薬、つまり「上薬」に分類されても不思議はありません。
●コーヒーの生豆は苦くないのに、焙煎すると超苦いくすりになる。
コーヒーを焙煎すると苦味が出てきます。普段耳にする常識では、コーヒーは煎れば煎るほど苦くなるので、効き目も強くなるのでしょうか? 文献によれば、最もコーヒーらしい苦味成分は、クロロゲン酸ラクトンといって、焙煎を始めると直ぐにできてきます。クロロゲン酸を多く含む豆ほど、煎れば苦味が強く、飲用に適さないほど苦くなる豆もあるのです(詳しくは → こちら )。
ところで、焙煎を続けていると、苦味の質に変化が起こります。コーヒーらしい心地よい苦味が弱まって、人によっては「飲めない、飲みたくない」となり、「砂糖とミルクが必要」となってしまいます(詳しくは → こちら )。そして「こんな苦い飲み物は要らない」ともなるのです。
●最近の喫茶店ではコーヒーを注文する客が減っている。
普通の人は超苦いコーヒーが嫌いです。そんなコーヒーよりは紅茶を注文する人が増えています。紅茶の苦味はカフェインのもので、ケーキにも合っているからです。でも本当にケーキに合うのは、カフェインの苦味も合わせて含むコーヒーの苦味のはずなのです。
●コーヒーらしいコーヒーの苦味はクロロゲン酸ラクトンの苦味である。
この苦味を堪能するには、せいぜいフルシティー程度までの焙煎に留めるべきです。もしそれ以上に強い苦味が飲みたいなら、効き目のことは忘れるべきです。苦過ぎるコーヒーには、最早くすりとしての価値はありません。
薬理学的な見方をしてみましょう。クロロゲン酸の副交感神経刺激効果を期待するなら、苦味の範囲をクロロゲン酸ラクトンまでに留めるべきです。それ以上に焙煎すると、神経を癒す作用が消えて、アドレナリン様の作用に代わってしまいます。
●過ぎたるは及ばざるが如し。
リラックスしたいときのコーヒーの苦味の常識です。
(第141話 完)
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