シリーズ『くすりになったコーヒー』


●焼け焦げを食べると癌になる。


これが常識かと言いますと、そんなことはありません。「ものによりけり」なのです。例えば、魚の焼け焦げはネズミに癌を起こしますが、ヒトには無毒です。漢方薬を蒸し焼きにした漢方黒焼は、今でも不定愁訴に需要があるのだそうです(詳しくは → こちら )。


●コーヒーの焼け焦げを毎日飲んでも毒にはならない。


 黒光りするイタリアンローストのコーヒーを毎日飲んでも癌にはなりません。それどころか、コーヒーを飲む人は癌になりにくいというデータが沢山出ています。前世紀末まで、「コーヒーを飲み過ぎると癌になる」という常識が、今では「癌の発症を予防する」に変わりつつあるのです。その理由を探ってみました。


●糖尿病患者の血中にある糖化最終産物(AGEs:エージーイーズという)は、焙煎コーヒーの着色成分(メラノイジンという)と似ているが、別物である。


 AGEsもメラノイジンも、糖とアミノ酸が反応してできる複雑な混合物で、どちらも茶褐色の焼け焦げ色をしています。話をわかり易くするために、北陸大(現金沢医科大)の竹内正義先生の論文から、絵を描いて紹介します。下の図をご覧ください(詳しくは → こちら )。




 ヒトの体内でできるAGEsは、糖尿病で増えている血中グルコース、グルコースが分解してできる数種類のアルデヒド・・・これらが蛋白質と反応してできるのです。一方、コーヒーのメラノイジンは、図の茶色の部分に示すように、コーヒー豆のショ糖(グルコースと果糖が結合したもの)が蛋白質と反応してできてきます。竹内先生は、原料がグルコースそのものか、またはアルデヒドかによって、AGE-1〜AGE-6まで区別したのです。


●AGE-2とAGE-3は毒なので、マウスが飲むと酸化障害を起こして病気になる。


 その他のAGEsには何の毒性もありませんでした。コーヒーのメラノイジンもAGE-1に分類され、無毒ということになるのです。


●コーヒーのメラノイジンは、糖尿病患者のAGE-1に相当している。


 では、コーヒーのメラノイジンは、「コーヒーを飲むと糖尿病になりにくい(詳しくは → 珈琲一杯の薬理学)」ことと関係があるでしょうか?


 これはまだ仮説の段階ですが、コーヒーを飲むと体内でAGE-1が増えて、他のAGEより多くなり、すると糖尿病のAGE-2やAGE-3の毒が薄まって病気が進みにくくなる、という考えが研究されている(詳しくは → こちら )。


●「コーヒーのメラノイジンは悪玉AGEsの毒を消す善玉AGEsである」という新たな常識が生まれそうです。


(第136話 完)


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