シリーズ『くすりになったコーヒー』
「コーヒーは身体に良いか悪いか」という話は、千年前から続いています。今日は「妊婦とカフェイン」を取り上げて、見かけの「常識」を検証してみたいと思います。詳しくは「コーヒーの処方箋(医薬経済社)」を参照して下さい。
さて、交尾した雌マウスの胃のなかに、毎日カフェインを注入して出産させると、口蓋裂をもつ仔が生まれるそうです。その他にも仔の体重減少など異常な妊娠経過を示す動物実験が多数報告されています。
動物実験によりますと、1日1回、体重1キログラムあたりカフェイン200ミリグラム以上を飲ませていると、異常が起こるとのことです。実験方法はまちまちですが、どの実験でも普通の人が普通に飲むカフェインの量より遥か大量が使われています。ネズミの体重をヒトに換算すると、1日に10グラム(コーヒー百杯)以上のカフェインを飲むことになるので、そんなに飲めば異常が起こるだろう・・・と言うことになるのです。異常どころか、死人が出てしまいそうです。
そういうわけで、確かな証拠がないままに、何となく「妊婦のカフェインの飲み過ぎは胎児に良くない」との常識が生まれたのだと思います。「疑わしいことは避けたほうが身のため」と思えば、妊娠したらカフェインの多いコーヒーは飲まないほうが安心だし、それでも飲みたいというならば、デカフェが無難と言うべきでしょう。
それでも普通に美味しいコーヒーを飲みたいという妊婦さんのために、最も信頼できそうな「ヒトのデータ」を紹介しますと、「妊娠中1日にコーヒー1杯(カフェインなら100ミリグラム)を飲んだ人の異常妊娠のリスクは、飲まなかった人とほぼ同じ」ということです(詳しくは →「コーヒーの処方箋」を参照)。この量なら動物実験の100分の1程度でしかありませんから、何の問題もないはずなのです。
ところで・・・、
●健康な妊娠にとって、「コーヒーとつわりの関係」は大事です(マンガを参照)。
妊娠すると「つわり」を経験します。すると胎児を守る防衛本能が働いて「苦いコーヒーは飲みたくない」と感じるのが常識です。ですから、妊娠しても「コーヒーを飲みたい」と思うときは、まずご自身の「つわりの有無」を気にする必要があるのです。
●「私にはつわりがないからコーヒーを飲んでも大丈夫」などとは二重に非常識。
妊娠してもつわりがないので好きなコーヒーを飲み続けたい・・・というのなら、まずは産婦人科を受診すべきです。
(第135話 完)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
栄養成分研究家 岡希太郎による
『コーヒーを科学するシリーズ』
『医食同源のすすめ― 死ぬまで元気でいたいなら』
を購入は下部のバナーからどうぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『医食同源のすすめ』のすすめ
昔からの言い伝えを侮ってはいけない!
「1日30種類の食材を食べていれば病気にならない」…昔からの言い伝え
「必須栄養素をガッチリ食べてカロリー制限していれば健康寿命が延びる」…先端科学
どちらも同じことを言っています。
言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。