シリーズ『くすりになったコーヒー』
誰が何処で始めたのかはわかりませんが、コーヒー滓(かす)は庭の虫よけになるのだそうです。虫と言ってもどんな虫にも効くというわけではなさそうですが、確かに効く虫がいるのだそうです。
コーヒー成分を化学的に眺めたとき、虫よけに効く成分があるでしょうか?これは簡単な話ではありませんが、筆者が読んだ論文のなかには、もしかしたら効くかも知れないという、コーヒーアロマの話があります。コーヒーの香りはアリやハエなど昆虫のフェロモンと似ているのです。
南米大陸では、ノミバエという小さなハエが、ヒアリ(日本列島にも上陸したらしい)の体内に卵を産みつけて寄生するそうです。幼虫はヒアリの栄養を吸い尽くして育つということです。では、ノミバエはどうやってヒアリを見つけるのでしょうか?
●ノミバエは、ヒアリが出す警戒(敵だぞ!)フェロモンの「2−エチルー3,5−ジメチルピラジン」を、「餌だぞ!」と検知してヒアリの巣を発見する(詳しくは → こちら )。
ヒアリが身を守るために作る警戒フェロモンを、ノミバエは逆手にとって子育てに活用しています。卵を孕んだノミバエは、ヒアリが出した警戒フェロモンを自分のセンサーで感じ取って、ヒアリの巣を見つけるのです。これってすごく不思議で、かつ恐ろしい話ではありませんか?どうして昆虫の世界でこんな不思議な進化が起こったのか、それは誰にもわかりませんが、でももっと不思議なことには、コーヒーの香りが、ヒアリのフェロモンにそっくりなのです。
●コーヒーの香気寄与成分(最も優れた香り)の1つが、ヒアリの警戒フェロモンとよく似ている(詳しくは → こちら )。
焙煎したコーヒーの香り成分は複雑ですが、なかでも10種類くらいの香気寄与成分がわかっています。コーヒーの香気寄与成分とは、コーヒーの香りの特徴を作り出すのに欠かせない成分のことで、そのなかにヒアリの警戒フェロモンとよく似た化学構造があるのです(図を参照)。そう言えば、我が家の台所の片隅で、コーヒー滓を入れたチャイナに、小さなショウジョウバエが集まっているのを見たことがあります。
ヒアリにとっての警戒フェロモンは「敵の存在」を意味します。ヒアリが生存するための進化の賜物とも言える生命現象です。ヒアリ以外にも、例えばハキリアリも似たピラジンを出すのだそうです。日本のアリにもあるはずなので、そこでアリの巣を見つけたら、コーヒー滓を詰め込んでおけば、巣のなかのアリが一匹残らず何処かへ引っ越して行くのです。
ノミバエの方はと言いますと、コーヒー滓をおとりにして、集まってきたハエどもを、一網打尽にするのだそうです。
さて、話変わって、
●「コーヒー滓入りシャンプー」でペットのワン君を洗ってやれば、頑固な蚤が逃げて行く。
でも油断大敵ですよ。ワン君にコーヒーの香りが残っていると、風呂上りのワン君がハエだらけになるかも知れませんから・・・!?
(第130話 完)
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言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。