シリーズ『くすりになったコーヒー』


 コーヒーはアルコール性肝炎(第32話を参照)、肝硬変、C型肝炎の発癌(第78話と第111話を参照)などのリスクを下げますが、脂肪肝は比較的軽症と思われているせいか、今まで調査はありませんでした。増えつつあるNASH(ナッシュ:非アルコール性脂肪肝炎)も脂肪肝の1種です。


●ようやく昨年になって、コーヒーと脂肪肝リスクの関係が発表された(詳しくは → こちら )。


 図を見ながら説明しましょう。



 調査に協力したのは492名(平均年齢44歳)で、1999年の調査開始時点では、全員が病気知らずの健常者(正常肝グループ)に属していました。この人たちが1日に飲んでいたコーヒーの量は、平均2.6杯でしたが、その後2004年まで1年ごとに、コーヒーを飲んだ量と脂肪肝の有無を追跡し、結果を図に描いたというわけです。


 追跡期間中に脂肪肝を発症した人の人数は増え続け、最終的に164名(33%)になりました(黒いグラフ)。この人たちが飲んでいたコーヒーの量は、常に当初の平均値を下回っていました。逆に、赤いグラフで示した正常肝グループの人数は次第に減り、最後は328名(67%)になりました。この人たちの飲んでいたコーヒーの量は次第に増えて、最後は1日3杯になりました。


 多少の疑問は残りますが、コーヒーと脂肪肝の関係について、2011年に他に2つの論文が発表されました。どちらもコーヒーがリスクを減らすとなっています。そして、効き目の成分はカフェインが有力と考えられています。カフェインが脂肪肝の発症を抑えるという動物実験が発表されているからです(詳しくは → こちら )。


 勿論、カフェイン以外の成分も効いているとの意見もありますが、カフェインが疲労物質アデノシンに拮抗して、肝細胞の線維化を抑える効き目に、研究者は魅力を感じているのです(詳しくは → こちら )。


 ついでですから筆者が専門とする薬学の話を1つ。


●NASHに限らず肝障害の原因として医薬品による副作用は無視できない。


 しかし、今までコーヒーまたはカフェインの予防効果が研究されたことはありません。何はともあれ、生活習慣病だからと言って、漫然と薬を飲み続けることに、落とし穴があるということです。好きなコーヒーを飲んで済んでいるなら、それに越したことはありません。


(第126話 完)


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どちらも同じことを言っています。
言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
 日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。