シリーズ『くすりになったコーヒー』
去る12月7日、慶応義塾三田キャンパスで開催された、「食と医科学、そして健康長寿」というシンポジウムに行ってきました。7つの講演の中身は色々で、特に焦点を絞ったようには見えませんでした。そのなかから、世界の料理人・三国清三シェフによる、「ホヤの心は母心」を紹介します。
三国シェフの講演の中身は“食育の哲学”とでも言うべきもので、コーヒー党にとって“目から鱗”の感がありました。
●生まれ故郷のホヤの味は天才三国のルーツであり、基本五味「甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦い、旨い」をすべてもった味がする。
北海道のホヤを食べて育った三国シェフの舌は、基本五味を区別できるのだそうです。特に「旨味」は欧米人にわかり難い味覚なので、三ツ星レストランの料理人も三国シェフに教えを乞うほどになりました(ついでですが「辛味」は味覚ではありません。ただの刺激です)。
片や、コーヒーカップテイスターの資格をもっている人は、コーヒーの五味を区別できます。でも、その技を食育に活かすなどとは聞いたことがありません。何故かと言いますと、「子供にコーヒーは良くない」という言い伝えが社会に根づいているからです。
●まてよ、もしかして「子供にコーヒーはよくない」と言って、子供にコーヒーを飲ませないでいることは、子供の味覚の発達を邪魔してることになるのかなあ・・・!?
三国シェフが伝道する食育の哲学とは、「子供の居る家族が毎日同じものを一緒に食べて味覚のコミュニケーションを図ることで、子供の心の成長を促す」ということだそうです。コーヒーはホヤと違って何処にでもある食材ですから、味覚のコミュニケーション作りには打ってつけの飲みものではないでしょうか?これこそ“目から鱗”の理由です。
●味の五感を鍛えると、心豊かな人に育つ(他人を傷つけたり弱い者虐めをしなくなる)。
もしかすると「コーヒーは子供の味覚形成にとって身近で優れた食材」かも知れません。子供でも美味しいと感じて飲めるコーヒーを家族皆で楽しめば、三国シェフの食育の哲学を手軽に実践できる・・・そういうことがあり得るのではないでしょうか?
「甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦い、旨い」ときても、コーヒーに「しょっぱい」塩味があるわけないという御仁、エチオピアには岩塩入りコーヒーがありますよ!そんなことしなくても、800円出してよいというなら、銀座8丁目のカフェ・ド・ランブルで「琥珀の女王」を注文して下さい。飲めばほんのりと塩気が漂ってくるでしょう。でも、塩など入れてありません。
もし子供にカフェインが悪いというのであれば、デカフェタイプのコーヒーを選んで、五味を嗅ぎ分けながら大人と子供のコミュニケーションを図れます。ミルクや砂糖で自分の味を作ってみれば、創造力も育ちます。
来年は、「子供にコーヒーは良くない」という社会通念について、深読みしてみたいと思います。それでは皆さん、良い年をお迎えください。
(第121話 完)
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栄養成分研究家 岡希太郎による
『コーヒーを科学するシリーズ』
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『医食同源のすすめ』のすすめ
昔からの言い伝えを侮ってはいけない!
「1日30種類の食材を食べていれば病気にならない」…昔からの言い伝え
「必須栄養素をガッチリ食べてカロリー制限していれば健康寿命が延びる」…先端科学
どちらも同じことを言っています。
言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。