シリーズ『くすりになったコーヒー』
活性酸素と親電子性物質から細胞を守ることができれば、大幅に発癌リスクを減らせます(第117話を参照)。コーヒーにはそのパワーがありますが、目に見えて実感できるものではありません。ではコーヒーのパワーとは、一体どの程度のものでしょうか? 2010年までのまとめです。(詳しくは → こちら )。
●毎日コーヒーを飲んでいる人の発癌相対リスクは低い(飲まない人を1.00とする):
この表は、コーヒーの量にはお構いなく、とにかく毎日コーヒーを飲んでいる人の平均値です。1杯しか飲まない人とがぶがぶ飲む人に差があるでしょうか?
●毎日ほどほど(数杯)飲む人の全癌相対リスクは0.89である。
●毎日がぶがぶ(5杯以上)飲む人の全癌相対リスクは0.82である。
●コーヒー1杯増やすにつれて、全癌相対リスクは0.03(3%)ずつ下がる。
では、「1日に20杯飲めば、0.40(40%)まで下げられるか」と言いますと、そんなことはありません。そんなことをすれば、癌になる前に心臓病になってしまいます。コーヒーは「毒にも薬にもなる」ものなので、だからこそ「優れた予防薬」として期待できるのです。
それでは、欧米に次いで日本でも急速に増えている前立腺癌について詳しく見てみましょう(詳しくは → こちら) 。
この論文は、47,911名の医療関係者を対象に、ハーバード医科大学で実施された追跡調査結果です。
●1日6杯以上飲む人の相対リスクは0.82で、表の数字とほぼ同じだが、致死性で悪性の癌に限ってみれば0.40まで下がる。
つまり、命に別状のある悪性の前立腺癌に限ってみれば、6杯のコーヒーで20杯分の効き目が出るというのです。ここでいう悪性とは、前立腺癌が骨やリンパ節に転移して死亡した例や、生存中でも遠隔転移が見られる症例のことで、コーヒーはこういう癌を予防するらしいのです。これが本当だとしたらノーベル賞ものです。
●悪性でない前立腺癌はコーヒーでは予防できないが、死に至る癌はコーヒーを多く飲めば予防できる。
普通なら、軽い病気ほど予防しやすいのに、前立腺癌は重いほど予防できるというのです。この理由を医学的にきちんと説明することは困難でしょうが、ちょっと待ってください・・・その前に確かめておくことがありませんか?
●この論文で調査対象になった人のうち、悪性前立腺癌の診断が下った人は、生活習慣の改善に取り組んで、以前に飲んでいたコーヒーを減らすか止めてしまってはいませんか?
もしこの心配が当たっていれば(当たっていそう?)、癌が悪性であればあるほど、患者はコーヒーを飲まなくなるので、「コーヒーは悪性の前立腺癌を予防する(悪性前立腺癌の人でコーヒーを6杯以上飲んでいる人は少ない)」という間違った調査結果が出てしまいます。もしそんなことが起こっていれば、この論文はとんでもないお騒がせ論文でしかありません。そうでないことを祈りつつ、確認のため新たな調査結果を待つことと致します。
ここでお断りしておきますが、コーヒーが前立腺癌に悪いという話はありません。ただし、癌でおしっこが近くなった人は、好きなコーヒーでも止めちゃうかも知れませんね。コーヒーが重症化の予防薬だとしたら、これはもったいない話です・・・デカフェもありますからねえ。と言うわけですから、
●コーヒー研究の最先端は、結構身近な話なのです。
(第120話 完)
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昔からの言い伝えを侮ってはいけない!
「1日30種類の食材を食べていれば病気にならない」…昔からの言い伝え
「必須栄養素をガッチリ食べてカロリー制限していれば健康寿命が延びる」…先端科学
どちらも同じことを言っています。
言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。