シリーズ『くすりになったコーヒー』
筋肉の力を振り絞り、思考力の限界に挑むとき、人はストレスを受け止めて、困難を克服する内なるパワーを生み出します。その原動力になっているのがストレスホルモンです。しかしこれには思わぬ代償が伴います。
●コーヒーは、ストレスホルモン「コルチゾール」のリサイクルを制御する(詳しくは田村悦臣教授の論文 → こちら とベルン大学の論文→ こちら )。
はてさてこれはとんでもなく難しいお話になりそうです。でも、ストレスが強過ぎて、しかも長引いて、気力と体力の限界を超えそうになったとき、それでも身体を壊さず次のチャンスに備えるために、「燃え尽きないためのメカニズム」があるのです。
●熱しやすくても、冷めやすい人は、ストレスに強い人である。
人は興奮すると副腎皮質という組織から「コルチゾール」を分泌します。コルチゾールはストレスホルモンの一種で、作用は強力です。でもコルチゾールの分泌が長引くと、エネルギーを過剰に使ってしまうので、身体は消耗してしまいます。
●冷めやすい人とは、ストレスホルモンのコルチゾールを、直ぐに分解する人のことである。
図を見てください。熱しやすく冷めやすい人がストレスに曝されて、一旦はコルチゾールを増やしたとしても、それは直ぐに壊れてコルチゾンになってしまいます。ホルモン作用もなくなって、ストレスとの戦いは休戦状態に入ります。つまり、身体は消耗を免れます。しかし、ストレスとの戦いを休むわけに行かず、コルチゾン→コルチゾールのリサイクル回路をオンにする臓器があるのです。この回路は肝臓や筋肉など、エネルギーを生み出す臓器で強く働くので、そこでコルチゾールの副作用が出てしまうのです。
●肝臓と筋肉は、コルチゾールの影響を強く受けて、その副作用としてクッシング病に似た臓器症状を出す。
そうです、ストレスと戦った結果、その代償として身体に変調が起こります。エネルギー代謝が異常となり、クッシング状態が続けばやがて糖尿病に発展します。
薬理学的に説明しましょう。図で、コルチゾールを分解する酵素は2型酵素の11β-HSD2、廃棄物をリサイクルするのは1型の11β-HSD1と呼ばれる酵素です。1型が多い肝臓や筋肉ではコルチゾールが強く作用して副作用を出してしまいます。これを臓器別クッシング病と呼ぶこともあるようですが、糖尿病の原因と考えられるようになりました(詳しくは → こちら )。
●コーヒーには2型酵素を活性化する成分と、1型酵素を抑制する成分が、両方とも入っているので、熱くなった人を冷やしてくれる。
冒頭に引用した2つの論文によれば、コーヒーを飲むとコルチゾールの分解が速くなると同時に、リサイクル回路が抑制されます。ですから、「ストレス状態の人がコーヒーを飲むとコルチゾール濃度が下がる」という調査結果もあるのです(詳しくは → こちら )。
一体コーヒーの何が効くのでしょうか?
●半世紀前のノーベル化学賞は、コーヒーアロマを研究してコルチゾールを発見したライヒシュタイン博士でした(詳しくは → こちら )。
現代の化学者は、ライヒシュタイン博士が抱いたコーヒーの不思議な疑問を解くことができるでしょうか?解けたら又ノーベル賞かも知れませんよ!
(第118話 完)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
栄養成分研究家 岡希太郎による
『コーヒーを科学するシリーズ』
『医食同源のすすめ― 死ぬまで元気でいたいなら』
を購入は右側のショッピングからどうぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『医食同源のすすめ』のすすめ
昔からの言い伝えを侮ってはいけない!
「1日30種類の食材を食べていれば病気にならない」…昔からの言い伝え
「必須栄養素をガッチリ食べてカロリー制限していれば健康寿命が延びる」…先端科学
どちらも同じことを言っています。
言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。