シリーズ『くすりになったコーヒー』


 東大弥生講堂の「食と生命のサイエンスフォーラム〜コーヒーと糖尿病についての最新知見」に行ってきました(プログラムは → こちら )。


 いくつか話題を紹介して、「栄養成分ブレンドコーヒー」に思いをいたしたいと思います。



 今世紀のはじめ、糖尿病とコーヒーの疫学に火をつけたバンダム教授、初来日の意味は大きいと感じました。ただしフォーラムが終わってみると、「コーヒーが2型糖尿病を予防する(かも知れない)」という学術的成果がもたらす社会的意味はまだ未知数だと思いました。講師自らも会場からも厳しい指摘がありました。


 まず、疫学調査に刺激されて小規模ながら臨床試験を実施した九大の古野(この)教授。


●コーヒーには急性効果と慢性効果がある。「急性効果(介入試験)は血糖値を上げるが、慢性効果(疫学観察)は糖尿病を予防する。」


 古野教授はこのジレンマに目をつけて、健常男性に16週間、インスタントコーヒー(ネスレ日本社提供)を飲んでもらったのです。その結果は「コーヒーが糖尿病を予防する気配はほとんどなかった」というものでした。そして教授は疫学観察結果に疑問を感じたようでした。でもちょっと待ってください・・・疫学からは、「コーヒーの効果は女性ではっきり出るものの、男性では出にくい」のです。ですから、黒白はっきりさせるには、女性での介入試験が必要です。


 次に、会場から出た最後の質問が印象的でした。


●過去数十年、日本のコーヒー輸入量は激増したのに、糖尿病患者も激増した。それでもコーヒーが糖尿病を予防していると言えるのか?


 質問を受けたバンダム先生(ちょっと可哀そう)、初めての日本でさぞかし戸惑ったことでしょう。主催者(東大総括プロジェクト機構+ネスレリサーチ東京)の助言が欲しかったろうに・・・とも思いました。結局答えは、「更なる調査を続ける・・・」と言うようなことでした。でもちょっと待てよ・・・答えは既に出ているんじゃないの?


●厚労省研究班(JPHC)のコホート研究論文を詳しく見てみますと、コーヒーの飲み方に応じた人数と糖尿病リスクの関係が出ています。



 これでおわかり頂けると思います。現状は質問者の指摘通りで、いくらコーヒー豆の輸入量が増えたとしても、糖尿病患者の数が減ることはありません。問題は「コーヒーが本当に糖尿病リスクを下げている人というのは、表の「赤」で示した人達なのです。決してコーヒー輸入量の増えた日本人全体ではないのです。女性のなかの9.1%、全体ではたったの5.0%でしかない」のですが、そういう人が確かに居るのです。


 以上まとめますと、第1回「食と生命のサイエンスフォーラム」で得た教訓は、


●貴重な疫学調査データを予防医学に活用するには、無駄な努力に懸けるのではなく、更なる知恵の結集が必要!


 更に言うならば、


●日本のすべての成人女性が1日に3杯以上のコーヒーを飲めば、日本の糖尿病患者の数は確実に減るはず・・・だが、飲み過ぎには厳重注意!


 更に更に言うならば、


●糖尿病リスクを最小にする「美味しくて安全なコーヒー」とはどういうコーヒーのことなのか?処方箋を明らかにして効率を高める必要がある(詳しくは「コーヒーの処方箋」を見て下さい)。


 それではコーヒー党の皆さん、「糖尿病を予防する美味しいコーヒーとは何なのか?」・・・「食欲の秋」とかは脇に置いて「珈琲だけの店」にでも行ってみることと致しましょう(例えば → こちら )。


(第116話 完)


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昔からの言い伝えを侮ってはいけない!
「1日30種類の食材を食べていれば病気にならない」…昔からの言い伝え
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言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
 日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。