シリーズ『くすりになったコーヒー』


 年を取ると知らぬ間に脳の血管が詰まります。毛細管の場合は気づかずに済んでしまいますが、太い血管が詰まると脳梗塞を起こして死亡することもあります。脳梗塞と脳出血を合わせた脳卒中の死亡率はトップ3に入る危ない病気です。図1右上の棒グラフは、コーヒー飲用と脳卒中死亡リスクの関係を示す日本人データです。程よく飲めばリスクは下がりますが、飲み過ぎは逆効果です。


 脳梗塞の原因の1つは「心房細動」です。この症状をもつ人は脳梗塞を発症するリスクが2〜7倍に高まるとのデータがあって、治療が推奨されています(詳しくは → こちら)。


 図1は心房細動と脳梗塞の関係です。コーヒーは健康な人に心房細動を引き起こすことはありません(図1左枠)。しかし、何か別の原因で心房細動を起こすようになりますと、左心房の中で血が固まりやすい状況になります(図1中央)。




●心房細動では左心房に血栓ができて、それが脳の血管に詰まることがある(詳しくは → こちら)。


 血栓ができる理由は、細動(不整脈の1種で小刻みで不規則な震え)が凝固の引き金になることです。心房細動の診断が下ると血液が固まり難くなる薬が処方されます。一番よく使われるのはワーファリンですが、副作用に血が止まらなくなるという欠点があります。


●毎日コーヒーを飲んでも心房細動になることはない(詳しくは → こちら)。


 以前からコーヒーは心臓に悪いと言われてきましたが、心房細動になるリスクとは無関係で、この論文には、「1日>436ミリグラムのカフェインでリスクが下がる」と書いてあります。しかし、もし心房細動が起こったら、将来脳梗塞になるリスクはどうなるでしょうか?過去のデータでは、「健康な人が1日に3-4杯のコーヒーを飲んでいると脳梗塞を起こすリスクは下がる」となっています(詳しくは → こちら)。


 しかし、この研究の調査対象は健康な人であって、心房細動がある人ではありません。そこで詳しく検索してみたところ、心房細動とコーヒーの関係を書いた論文がありました(詳しくは → こちら)。


●コーヒーまたはカフェイン摂取は心房細動の自発的除細動を長引かせる?


 新たに心房細動と診断された600人中の247人は高血圧患者で、他は正常血圧でした。両群のコーヒー摂取量をアンケート調査し、コーヒー群の心房細動発作の自発的洞調律化(不整脈が自然に治まる)の頻度を、高血圧群と正常血圧群に分けて、非コーヒー群と比較しました。結果を図2に示します。




 論文はこの1つだけなのでまだ確かなことは言えません。それでも「疑わしきは避ける」のがリスク回避の原則ですから、心房細動(恐らく他の不整脈も)になったら、カフェイン入りコーヒーを避けて、デカフェタイプが安心です。最近のデカフェは味も良いので、カフェインに慣れた人なら、こちらにも直ぐに慣れるのではないでしょうか。加えて、デカフェコーヒーにも、カフェイン入りと同じように、血液をサラサラにする効き目があるのです(図1中央)。


●コーヒーが血栓を予防するのはカフェインが効いているわけではない(詳しくは → こちら)。


 東海大病院の後藤教授は「コーヒーほど血液をサラサラにするものはない」と明言しています。では「何が効いているのでしょう」との質問には、「カフェインでないことだけは確かめた」と答えてくれました。ですから、デカフェタイプのコーヒーは、心房細動への影響がなく、かつ血栓をできにくくして脳梗塞を予防する効き目があると予測できるのです。


 最後のもう1つ加えると、心房細動の人は普通より強いストレスを受けています。精神的ストレスの強さを測定してみると、地中海食の食事でコーヒーを飲んでいる人では相対的にストレススコアが低なっていて、それが症状に良い影響を及ぼしているとの論文も出ています(詳しくは → こちら)。


 どうやら心房細動のキーワードは「デカフェコーヒー」と言えそうです。


(第367話 完)


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