シリーズ『くすりになったコーヒー』


 糖尿病薬の一番人気は食後高血糖予防薬です。タケダのベイスンとバイエルのグルコバイがありますが、どちらも食前に飲むように言われます。


●炭水化物の消化を遅らせて、食後高血糖を防ぐ薬は、食前に飲むべし!


 大抵の薬は食後に飲むように言われます。胃に優しいからというのが理由です。それなのに、ベイスンやグルコバイは食前に飲まなければなりません。何故でしょうか? そうしないと効かないからです。


 コーヒーのクロロゲン酸も同じです。


●浅煎りコーヒーを食前に飲めば、食後高血糖を予防できるし、メタボ対策にも有効である。


 浅煎りでなければいけません。何故ならクロロゲン酸は、浅煎りコーヒーに含まれているからです。効き目の原理は、ベイスンやグルコバイと同じです。ですから、炭水化物の消化がゆっくりになって、高血糖を予防できるのです。


 深煎りコーヒーが飲みたい人はどうすれば良いかといいますと、食後の一杯を深煎りにすればよいのです。そうすれば食事の満足感とコーヒーの癒し効果が重なって、幸せな気分になるというものです。


 食前にクロロゲン酸を飲ませたラットの実験で、食後の血糖値をグラフにしました(Ishikawaら、2007)。




 ヒトでは、クロロゲン酸と血圧の実験はありますが、血糖値についてはまだきちんとした実験はありません。何故なら、コーヒーを飲む習慣は、多くの人にとって食後が当たり前だからです。残念ながら、常識を破るような実験を思いつく研究者がいないということのようです。


 さて、日本の懐石料理を見てください。食前に必ずお茶が出ます。高級料亭では、茶道に則って茶室に案内されるほどです(例えば、京都の下鴨茶寮)。カテキンの効果で、食後高血糖がある程度は抑えられているはずです。では、フランス料理やイタリア料理はどうでしょうか?


●ホテルでは、「お料理の後でコーヒーか紅茶をご用意いたしますが、ご注文はどっち?」


 こういう作法は、薬理学的に間違っています。食前には、まず浅煎りコーヒーでもてなして、デザートでは本格コーヒーを振舞うべきです。


 料理家の皆さん、是非その辺りの研究をしてください。この世からメタボが消えるかも知れません。


 一般消費者の皆さん、レストランでは「コーヒーを最初に注文」しましょう。


(第105話 完)


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昔からの言い伝えを侮ってはいけない!
「1日30種類の食材を食べていれば病気にならない」…昔からの言い伝え
「必須栄養素をガッチリ食べてカロリー制限していれば健康寿命が延びる」…先端科学
どちらも同じことを言っています。
言い伝えに耳を貸せば、間違った生活習慣を見直したり、病気を予防する食べものに気を配ったり、儲け本位の怪しい健康食品をボイコットしたり、本当に役立つサプリメントを選んだり、身体にあった大衆薬を買って飲んだり、医者にかかるタイミングを間違えないようになるのです。
 日々店頭に立つ薬剤師には「患者説明の豊富なヒント」、製薬会社のMRには「社会学的くすりのエビデンス」、アカデミアの研究者には「目から鱗の研究テーマ」、そして一般消費者には「確かな情報」を提供します。NHKスペシャルで大反響のレスベラトロールなど、ほんの一部に過ぎません。