シリーズ『くすりになったコーヒー』


●コーヒーで予防できる病気はたくさんありますが、それらをまとめて「コーヒーの証」と呼ぶことにします。


 前回こういう意味の提言をしたところ、漢方薬の研究者から有難い意見を戴きました。


【証を西洋医学の病名で表わすことについて】


 証と病名は基本的に異なります。例え二人の人の病名が同じであっても、同じ漢方薬の証であるとは限らないからです。同じ病名でも異なる漢方薬が効果的である場合が多々あるので、「証=病名」には飛躍があります。


 ただし、保険医療で漢方薬エキス剤を西洋医学的に使用する場合は、確かに「証=病名」になる場合があります。


●インフルエンザの場合


 よく人によって実証/虚証と言われますが、どういうことでしょうか?市販されている「治療薬マニュアル」から引用します。


 インフルエンザに罹ったとき、もし罹って数日以内なら、実証(例えば、汗をかいていない人)は、葛根湯(かっこんとう)を飲みます。虚証(例えば、汗をかいている人)は、桂枝湯(けいしとう)を飲みます。


 この二人は、西洋医学的に言えば、ウイルス検査で陽性になった人という意味で同じインフルエンザです。しかし漢方では、急に寒気がして、熱があって、頭が痛い人が受診したとき、汗をかいて「いない(実)」、または「かいている(虚)」というように、違う人として扱うのです。前者は実証の人、後者は虚証の人なのです。


 同じ二人の言い方として、前者は「葛根湯の証の人」、後者は「桂枝湯の証の人」ということもあります。両者を更に厳密に、橈骨(とうこつ)動脈の感触で区別することもあります(図を参照)。


 (豊橋ハートセンターホームページから)


 葛根湯の証の人の橈骨動脈を指で触れますと、動脈らしく堅く充実しています。逆に桂枝湯の証の人の橈骨動脈は、張りのない感触です。こうして両者を見分けるには、経験を積んだ技術が必要というわけです。


 さて、以上のような漢方薬の証の違いを参考にして、コーヒーの場合を考えます。


●コーヒーの証とは、コーヒーを飲めば罹患リスクが下がるという一連の病気のことであり、またその病気に罹りやすい人のことである。


 これはコーヒーの側から見た定義で、いわば漢方の「葛根湯の証」という場合に当たります。コーヒーを飲む人の側から見たらどうなるでしょうか?


 「〇〇病に罹りたくないし、コーヒーが好きなので、コーヒーを飲む人」は、「コーヒーが証の人」なのかも知れません。当然、コーヒーが嫌いな人はコーヒーの証ではなくなります。


 さてさて、何だか馬鹿馬鹿しくなってしまいますが、もう少し頑張ります。


●〇〇病の予防によく効くコーヒーとは、どんなコーヒーなのか?


 もしコーヒーの薬理学が進歩して、そういうことが解ってくれば、「コーヒーの証」の定義は、もっと解り易く確かなものになると思います。漢方薬が辿ってきた長い歴史に比べれば、病気予防のコーヒーの歴史なんぞは、今始まったばかりです。


(第101話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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