シリーズ『くすりになったコーヒー』


 前回までの「うるおいドリップ」は、半分のお湯で抽出して、2倍に薄めて飲みました。そうすることで「嫌な苦味」が消えるからです。この方法は、「濃く淹れて薄めて飲む」ということでもあるのです。


●コーヒーは「濃く淹れて薄めて飲む」ものである。


 こんなことしている所を喫茶店で見たら、二度とその店には行かなくなるでしょう。でもこれこそが本当の淹れ方なのです。ドリップ式で淹れるコーヒーは、はじめ濃厚な旨味が出て、次第に苦味や雑味が加わって、最後は薄まった雑味だけになるのです。ですから、10グラムの豆で100ミリリットル(1杯分)を淹れるとき、最初の50ミリリットルは美味しくても、次の50ミリリットルに、コーヒーの美味しさはないのです。


●深煎り豆ほど、希釈倍数を増やすのがよい。


 これはどういうことかと言いますと、イタリアンやフレンチローストの深煎りには雑味が多いということです。そのため2倍程度に薄めて飲むのが良いのです。最初の50ミリリットルだけ取って、あとはお湯で薄めます。あるいはまた、最初の50ミリリットルだけを、濃いまま味わって飲むのです。希釈の程度でコーヒーの味は面白いように変わります。


●浅煎りコーヒーも薄めて飲むか?


 これは好き好きとしか言いようがありません。でも多分濃く淹れたほうが美味しいのです。最初の50ミリリットルに溶けている量と、次の50ミリリットルに溶けている量は全然違っています。最初のほうが恐らく2倍以上は濃いはずです。ですから、薄いコーヒーが好きな人はお湯で割って飲めば美味しいし、濃いコーヒーが好きな人はそのまま飲めばよいのです。



「コーヒー学入門」を書いた金沢大学の広瀬幸雄名誉教授は、ドリップ式で極上のコーヒーを淹れるとき、「500グラムの豆から最初の20ミリリットルだけを取る」と書いています。50人分の豆を使って、たった一口のコーヒーが飲めるというわけです。しかしこの一口は、誰も飲んだことのない極上の一口です。


 もう1つ、高木誠氏によれば、独自のサイクロン式で抽出すると、10人分なら6倍に濃縮できるとのことです(詳しくは → こちら


●濃く淹れたコーヒーは身体に良いか?


 さて健康の話ですが、答えは「良いはず」です。嫌な苦味、すなわち雑味のなかには「最終糖化産物(AGEs): Advanced Glycation End-products」が含まれています。AGEsとは一体何ものかと言いますと、コーヒーの雑味成分の一種ということ以外に、糖尿病患者の血液に混ざっている細胞傷害性物質のことなのです。


 AGEsはアルツハイマー病患者の脳のプラークからも検出されました。この現象の説明として、糖尿病患者がアルツハイマー病になりやすいという事実が上げられています。何だか恐ろしい話ですが、詳しいことはよくわかっていません。わかってはいませんが、「怪しい食べものは避けたほうが良い」という大原則がありますから、深煎りコーヒーの雑味成分は飲まないに越したことはないのです。


●深煎りコーヒーの雑味成分は、もしかしたら身体に悪いものかも知れません。


「濃く淹れて薄めて飲むこと」をお奨めします。


(第92話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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