シリーズ『くすりになったコーヒー』
高脂血症とコーヒーの関係は複雑です。以前に、「コーヒーは糖尿病予防やダイエットによい」と書きましたが、高脂血症の場合はそうは行きません。高脂血症と肥満は似ているようでも違うのです。
●痩せていても高脂血症になるし、太っていてもなるとは限らない。
そこで一番大事なことは、痩せている人が高脂血症にならない方法はないかということです。それが意外に難しいことなので、コーヒーについても調べてみました。結論から言いますと、「コーヒーの淹れ方によっては高脂血症のリスクが高まる」というのです。
そこで今日のテーマは、痩せた人のコレステロール値が高くならないコーヒーの淹れ方です。
●コーヒーにはコレステロールを増やして高脂血症にする成分がある。
●高脂血症を避けるには、フィルターコーヒーを飲めばよい。
ごく普通のドリップ式ペーパーフィルターでろ過すれば、血中脂質を高める成分が除かれます。その物質とは、カフェストールとかカウェオールと呼ばれるジテルペン類のことで、ドリップ式で淹れると除けます(表1を参照:Mol Nutr Food Res. 2005;49:274-84から改変)。
前世紀の後半まで、北ヨーロッパのコーヒー大好きな人々は、煮出しコーヒー(浸漬法)を愛飲していました。浸漬法とは、煮出しコーヒー、トルココーヒー、フレンチプレスなどの淹れ方で、表にはありませんがサイホン式も浸漬法に近い方法の1つです。
論文によると、北欧の人たちは煮出しコーヒーを好んで飲むため、血中コレステロールが統計的に有意に高かったというのです。しかし最近になって北欧の人々もドリップ式を飲むようになり、再調査によるとコレステロール高値の傾向はなくなりました。
日本人のコーヒーの飲み方にも色々ありますが、大抵はドリップ式だと思われます。ドリップ式にはペーパーフィルターの他にネル(リント布)が使われます。ネルを使ってろ過すると油分の匂いが消えるということで、フランス人が好んで使う方法です。恐らくネルドリップで淹れたコーヒーも、ジテルペンを含んでいないと思われます(表にはありません)。
ペーパーフィルターを使うと何故ジテルペン類が除去されるのでしょうか? ペラペラの紙1枚にどうしてそんな能力があるのでしょうか? サイホンや水出しコーヒーはどうなのでしょうか? こういうことは何も解っていない実情です。
確かなことだけをまとめましょう。
●疫学調査によれば、高脂血症以外に2型糖尿病の予防にもフィルターコーヒーが優れている。
●フィルターコーヒーなら、コレステロール値が高くなることはない。
ということで、最も安心して飲めるコーヒーの淹れ方は、ペーパーフィルターのドリップ式であり、次がエスプレッソなのです。そういうコーヒーを飲むことで、高脂血症や糖尿病のなれの果てとも言える心臓病のリスクを抑えることができるのです(詳しくは → こちら )。
さて、コーヒーにはジテルペン以外にも悪玉候補が入っています。昔「コーヒーは身体に悪い」と言われたわけは、煮出しコーヒーや多分サイホンで淹れたコーヒーに原因していたのかもしれません。このブログでも何時かまとめて「コーヒーの悪玉の話」をして見ることに致しましょう。
(第63話 完)