シリーズ『くすりになったコーヒー』


 ニューヨークに住んでいた加藤サルトリ氏がインスタントコーヒーを考え出したのは1899年のことでした。抽出したコーヒーを真空状態で低温乾燥する・・・というその技術はまだ未熟で、香りの成分のほとんどは消えてなくなってしまいました。


 香りを残す大量生産を可能にしたのは、1938年、ネッスル社の凍結乾燥法でした。沸点が低く、揮散しやすい香り成分を、凍らすことで閉じ込めて、水分だけを飛ばしてしまおうという技術です。でも、まだ今でも不十分です。


●いくらコーヒーを凍らしても、香りの成分は飛んで行く。


 よく考えてみるとこれは不思議な現象です。


【不思議1】水と香りを比べてみると、水の方が蒸発しやすい。


【不思議2】それでも香りは消えてなくなる。


 この不思議を解くために技術者たちは考えました。


●コーヒーの香りは酸化されるのではないか?


 でも、数あるほとんどの香り成分は酸化なんかされません。何故かと言うと、コーヒーは200度を超える高温で、しかも空気中で焙煎されていますから、酸化はすでに終わっているのです。


 もし技術者たちの考えが正しいとしても、それはほんの例外でしかないはずです。その証拠に、コーヒー豆を空気を抜いて蒸し焼きにすると、絶対にいい匂いはしてきません。つまり、コーヒーのいい香りとは、酸素と反応した結果なのです。


 では話を本論に戻しましょう。まずは香りの集め方のまとめです。


【方法1】熱をかけて蒸留して回収する(古典的方法)。


【方法2】炭酸ガスの臨界抽出法で、一旦抽出してから回収する(比較的新しい方法)。


【方法3】吸着担体(シクロデキストリンなど)に、一旦吸着させてから回収する(最新法の1つ)。


【方法4】冷水攪拌法で、一旦三相に分離してから回収する(最新法の1つ)。


 どれもそれぞれの長所と短所をもっていて、完璧な方法はまだないというのが現状です。コーヒーの香りの奥はまだまだずっと深そうです。
 

 そこで筆者も考えて、遂に誰もやったことのない方法を見つけました。


●クロマトグラフィー法(ノーベル賞学者が5人も出た分析化学の技術)


 筆者が昔使っていたクロマトグラフィーのガラス管を取り出して、それにコーヒーを詰めて、上からお湯を流す。水出しコーヒーと同じではないかと言われるかもしれませんが、これが全然違うのです。一番の違いは、時間をかけて「ぽたぽた落とす」のではなくて、「さらさら流す」感じです。


 細かな技術論は別にして、なんと特許申請してしまいました。来年公開されるまでに、現在のゴツイ装置を、ピカピカに磨き上げる予定です。


 エスプレッソが発明されてほぼ100年。化学実験にクロマトグラフィーが発明されて50年です。その間、コーヒーにクロマトグラフィーが使われたことはありません。


☆☆☆水出しコーヒー装置を熱水用にモデルチェンジすると、クロマトコーヒーを淹れられる。


 新技術を使うと、苦味を抑えた10倍濃縮のコーヒーエキスが作れます。ブルーマウンテンやコナコーヒーよりも、100グラム200円の安い豆で上手く行くのが不思議です。


クロマトグラフィーで化学実験したことのある方は、お試しください。


 本件についてのお問い合わせはこちらです → oka@toyaku.ac.jp 


(第53話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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