シリーズ『くすりになったコーヒー』


 焙煎コーヒーのメイラードの香りのなかで、2,5−ジメチルピラジン(以下、DMPと呼ぶ)の量が一番多いと思われます。とはいいましてもコーヒー1杯あたりに1ミリグラム程度ですから、カフェインに比べれば100分の1という微量です。


 DMPの匂いがどんなものかと言いますと、「生まれて二十日目の雌のマウスの香り」です。つまり大人になったばかりの雌の香りです。人間の女性に例えれば二十歳前の香りかも知れません。いい悪いは別にして、欲望をそそる香りですから、シャネルの5番に加えてある意味も自ずと明らかというものです。


 DMPの香りは性的欲望をそそる香りではありますが、大量に飲みこめば人の生理学にも少なからぬ影響を及ぼします。ですからDMPは薬理作用物質であって、単に香りと言うだけのものではないのです。


●DMPは代謝されて5−メチルピラジン酸(以下、MPA)になる。


 このMPAの薬理作用ですが、実は想像を超えた優れものです。


●MPAはニコチン酸とそっくりの作用を示す。


 そうなのです。MPAはビタミンのニコチン酸とよく似た構造なので、身体のなかでニコチン酸の受容体に結合してしまうのです。そうするとどういうことが起こるのでしょうか。


☆☆☆ニコチン酸とピラジン酸は、どちらもストレスに強くなる。


 ところで、「カフェインが脂肪を燃やすのでコーヒーはダイエットに効く」と言いますが、真っ赤な嘘です。なぜカフェインの間違った情報がネットに氾濫しているのか、今日はその訳を考えてみます。


●コーヒーを飲むと目が冴えて寝られない → コーヒーは一夜漬けによい → 単位をクリア!


 これは誰にも納得のゆく論法で、薬理学的にもかなり正しい内容です。


●コーヒーを飲む → 興奮する → アドレナリンが出る → 脂肪が燃える → ダイエット大成功!


 これは真っ赤な嘘です。


□1□ コーヒーを飲むと頭は冴えますが、絶対に興奮しません。逆に落ち着きます。


□2□ コーヒーはアドレナリンを出しません。そうではなくて、副交感神経を刺激するので、交感神経のアドレナリンが相対的に下がります。


□3□ アドレナリンは皮下脂肪を溶かして血中に出しますが、燃やしたりはしません。


□4□ 血中に出た脂肪を燃やすのは脳味噌か筋肉です。つまり、頭を使うか、身体を動かすかのどちらかです。


□5□ 運動もせずにアドレナリンを出せば、おおかたの予想に反して高脂血症になってしまいます。


 理屈は間違っているのですが、コーヒーにもカフェインにも確かにダイエット効果があるのです。ただしそれは「運動もしながらコーヒーを飲む」という習慣を身につけてからの話です。


【結論】頭も使わず運動もしない怠けものが、コーヒーだけでダイエットなどとは、臍が茶を沸かす話なのだ。


 おっと、ピラジン酸のお話が中途半端になってました。


 次回にしますね。 


(第49話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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