シリーズ『くすりになったコーヒー』
女性の身体は妊娠すると変ります。どんなお相手との間でも、すべての場合に胎児は侵入者(インベーダー)みたいな者ですから。
母胎に宿った侵入者は、母胎の反撃を受けないように、胎盤で護られています。侵入者であることをひたすら覆い隠して生き続けるのです。不思議なことに、そんな侵入者を護るために、母胎は自らの食べものの好みさえ変えてしまいます。
●最も顕著な変化は「つわり」。
「つわり」が始まると、大なり小なり吐き気を感じるようになり、ひどければ嘔吐するほどになります。食べものの嗜好が変わって、今まで好きだったものまで、食べたいとは思わないようになったりします。
●「つわり」がひどい人は流産・死産のリスクが低い。
●「つわり」のない人はある人に比べて、流産・死産のリスクが高い。
コーヒーが大好きな女性でも、妊娠すると「もうコーヒーなんか飲みたくない」と感じるのです。もし「つわり」が軽いかほとんどない人が、「コーヒーを飲みたい」と思って飲み続けると、流産・死産の危険がさらに増してしまうかも知れません。
ですから、一言で「コーヒーは妊娠によくない」と言っても、人によって内容は違うということをお解りいただけると思います。
●妊娠して「つわり」が軽いかない人は、コーヒーを飲みたくても飲まない方が安心。
●きついつわりが、「コーヒーを飲めばすっきりする」と思う人でも、コーヒーを飲まない方が安心。
妊婦のコーヒー飲用と流産の関係を調べた論文を読んでみると、1日にカフェイン100ミリグラム相当(コーヒーで1〜2杯)を飲んでいた人の流産・死産リスクは、飲まなかった人の1.4倍だそうです。ただし、この種の追跡調査で、つわりの有無を考慮したものはほとんどありません。つわりの程度と、コーヒーを飲むことに関係があるとすれば、流産・死産はコーヒーではなくて「つわりのせい」ということになりかねません。
妊娠とコーヒーの関係は、結果が重大であるだけに慎重に議論されてきました。そのためどちらかと言えば、「妊婦がコーヒーを飲むのは子供に良くない」との意見が支配的になりがちです。一方で、「コーヒーは妊娠に影響しない」という論文もありますが、やはり結論は慎重に書かれています(最新の論文は → こちら )。
●妊婦にコーヒーが良いか悪いか、確かな結論はない。
では、コーヒー好きな人が妊娠して、コーヒーが飲みたくなったらどうすればよいのでしょうか?
□1□ 我慢するに越したことはない。
□2□ つわりが終わってからなら、1日1〜2杯程度は安心(カフェインで100ミリグラム)。
□3□ つわりが軽いかない妊婦さんは、我慢するに越したことはない。
ということですので、科学的な答えが出るまでは、我慢が一番と言ったところです。
言い忘れましたが、紅茶の飲みすぎも妊娠中毒リスクを高めるそうです。これも「つわりの有無」のせいかも知れませんよ。緑茶については、信頼できるデータはありません。くわばら、くわばら。
(第45話 完)