シリーズ『くすりになったコーヒー』


 夏の夜、蚊に刺されたら「キンカン」塗るか、それとも「ムヒ」にするか・・・? どっちでもいいでしょ、そのうち痒みは消えますから・・・でも、消えるまでのイライラ感が癪にさわるのです!


●(株)金冠堂の「キンカン」には、トウガラシチンキという激辛唐辛子のアルコールエキスが入っています。と言ってもほんの少し0.35%で、主成分はアンモニアです(→ こちら )。


●(株)池田模範堂の「ムヒ」にはステロイド剤や抗ヒスタミン剤など医療用医薬品が入っていて、いわば新薬です(→ こちら )。


 どっちがよく効きますかって? はっきり言ってヤブ蚊に刺されたらどっちも今一です。その証拠に、「キンカン塗って〜また塗って〜〜」と、金冠堂は正直にPRしています。塗った瞬間の気持ちよさはどっちも確実なのですが、また塗りたくなるということは、「早く使い切って下さい」というメーカーの戦略のように聞こえます。


 何は兎も角、キンカンに入っている日本薬局方「トウガラシチンキ」の原液は物凄く効きますよ! ただしこれは医薬品ですから、使い方を間違えると大変つらい目にも会うのです。間違って粘膜につけたら激痛に襲われるだけでなく、痕がただれたりします(→ こちら )。


●トウガラシチンキは皮膚を刺激して、薄めて塗ればポカポカ温まるが、塗り過ぎるとヒリヒリ痛む。痛み止め作用があるものの、ピリピリ感で寝不足になってしまう。


●ピリピリ感をなくしてポカポカ感だけにすれば、間違いなくもっとよく売れる。


 鎮痛薬や抗炎症薬が得意な製薬会社が、トウガラシチンキの主成分「カプサイシン」を研究しています。どんな研究をしているかといいますと、これまた化学構造式を見れば一目瞭然・・・今回まで紹介してきた「正露丸」「バニラ」「今冶水」「生姜」「珈琲」「米ぬか」「唐辛子」といった関蓮が、最先端創薬サイエンスにつながっているのです。


 例によって構造式の共通部分はどこかといえば、黒で書いた部分だけで、赤い部分は原料の個性とでも言いましょうか、それぞれ違っているのです。要点を整理します。


■原料はどれもみな香辛料か、または独特の味と香りをもっている。


■皮膚に塗ったり食べたりすると、黒い部分がみな同じ“バニロイド受容体(TRPV1)”に結合する(→ こちら )。


■強く結合するカプサイシンは激辛で、皮膚につくと痛みと熱を感じ、脳では自律神経を活発にして、アドレナリンを分泌し、汗をかく。


■弱く結合するグアヤコールやバニリンは、独特の香りで舌を刺激し、弱った自律神経のバランスを調節する(詳しくは → 第24話)。

■その他のものは、唐辛子と正露丸の間の特徴をもっている。


 以上を総合すれば、“バニロイド受容体”とは、自律神経系の働きと深く関わっていることがわかります。そこでこの夏を快適に過ごすために、


☆☆☆一応健康なら、猛暑ストレス解消に、真っ赤な唐辛子がよい。


☆☆☆唐辛子が苦手なら、高級バニラがいっぱいの、アイスクリームがよい。


☆☆☆そんな高いものを買えない人は、コーヒー生豆ジュースか浅煎コーヒーを飲みましょう。


 それでは次回、ストレス解消とダイエットに、夏の最適レシピを紹介します。


(第28話 完)



栄養成分研究家 岡希太郎による
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